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ひとり寿司第38章パート1

「ひとり寿司」をブログに連載します!

ひとり寿司

寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***

38

レックスは、ダイヤモンドのイヤリングを指でいじった。さわりたくなかった。彼女の不器用な指には繊細すぎる。バレーボールをさわっている方がいい。

母が亡くなる前に家に戻ってきた時、このイヤリングをつけていた。

そういう理由もあって、レックスは一度もこれをつけたことがなかった。母は疲れた顔をしていた。生きるのをあきらめ、安堵した表情をしていた。

レックスは決してあきらめない。母も、あきらめるべきではなかったと思う。

理不尽であることは分かっていた。母は、死を避けて通ることができなかった。しかし、そのイヤリングを見ると、母が死を受け入れた時、あきらめた時を思い出した。

レックスも、あきらめようとしていた。神様の手に、明け渡そうとしていた。

喜びに満ちた平和も、全てがうまくいくという驚くべき確信もない。ただ、静かな希望があり、少し感覚も麻痺していた。うまくいくかもしれないし、いかないかもしれない。ただ、待ってみるだけ。

イヤリングをつけた。

ブライズメイドのドレスを着るのに少し苦労した。淡いラベンダー色のフワッとしたスカートが、ぎこちない膝にまとわりついて、手染めのパンプスがうまく履けない。もう一方のACLも切れそうだ。

レックスは靴を箱に放り投げ、スニーカーに手を伸ばした。スカートが長いから、靴は見えなかった。ほとんど。

さて、松葉杖を使おうか? どうしよう。

壁に立てかけた松葉杖をにらんだ。不安定になり、痛みを感じていたときに、また取り出したのだった。

しかし、強いこと、強がることは、重要なのだろうか? レックスは、わざわざ手を伸ばしてイヤリングをいじった。そして、バッグと松葉杖をつかんだ。

レックスが松葉杖で足を引きずって側廊を歩くのを見たら、マリコは気が狂うだろう。

歩道の縁石まで出ていった。SUVが停まっているが、父の車が見えない。レックスはすでに遅れている。父も遅れているのだろうか?

待って、あのSUVは見覚えがある。

エイデンが後ろに回って、トランクを開けた。

「ここで何してるの?」

「僕が運転手だ」レックスの松葉杖を取って、後ろに滑らせた。

「お父さんは?」

「もうメアリーと教会へ向かってる」

レックスは、エイデンの平然とした顔が読めなかった。「どうして?」

「いつものように遅れて来る君を、どうしてお父さんが待たないといけないんだ?」

彼女はにらんだ。

彼はニヤッと笑った。

ニヤッと笑ったのだ。

「まあ運転手が変わるぐらい、どうでもいいわ」

「その前にさ、二週間前に言おうと思ってたことがあるんだ」

「アイクのことだったら——」

「違う、だけど彼の教会のこと」

「彼の教会? あなた、教会嫌いでしょ」

「最近、その教会に行き出したんだ」

レックスはふらついた。エイデンは彼女の方に飛び出したが、彼女は、彼の顔の前に手を出して制した。「大丈夫だから、今なんて言ったのか、もう一回言ってくれる?」

「彼の教会に行ってるんだ」

「いつから?」

「二週間前。キリストのことが少し分かり始めてきた」

言葉が出ない。何か言ってみようと思ったが、その情報が意識の中に浸透する時間が必要なように思えた。

そして、彼女に起こった出来事は、自分自身が招いたことだったと気がついた。彼女の問題は、もっと早くに解決していたかもしれないのに(と言うか、多分そう。何となく。アイクのことからもっと早く立ち直れていれば、の話だが)。エイデンが彼のことで自分を惨めな気分にさせたことについては、喜ぶべきだった。「どうして言ってくれなかったの?」

彼は一歩下がった。多分、キリストの体の一部として彼を迎え入れる口調とはいえなかったからだろう。「関係ある? 君だって、信仰は個人的なものだ、って言ったじゃないか」

「個人的? 個人的? 私は、自分におまじないを言ってたのよ『見るのはいいけど、さわっちゃダメ。見るのはいいけど、さわっちゃダメ』って。それなのにあなたは——二週間も前に——ウガーッ!」

エイデンは、レックスのように気の狂った女を車に乗せてもいいものかと考え直しているようだ。「あの……『見るのはいいけど、さわっちゃダメ』って何?」

レックスはSUVの後ろに向かった。「私の松葉杖は?」

「何で?」

「あんたの頭をぶん殴るのよ」

***

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