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ひとり寿司第37章

「ひとり寿司」をブログに連載します!

ひとり寿司

寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***

37

レックスの足は段ボール箱の端に引っかかり、膝がズキズキした。痛みが消えるまで、うめきながら我慢した。

荷物を詰める前に、住む場所を探すべきだ。だけど、動いて何かしてないと、ダメだ。何が起こったのかを考え始める前に。

ドアベルが鳴った。段ボール箱の間を通って、小股で足を滑らせた。

トリッシュだった。

「入っていい?」

レックスは横にずれた。「あんまり場所はないけどね」

トリッシュは、ベッドまで通り抜けて座った。レックスは少しの間、ドアのそばに立っていたが、彼女についてベッドの方に戻った。

トリッシュは、ほっぺたの内側を噛んで、頭を落としていた。「ごめんね、レックス」

昨日の夜、強情で愚かな自分を思い、イエス様の赦しの中で静まっていた時、トリッシュに腹を立てるのは、単純にバカげた理由のためだと思えてきた。「いいのよ」

「よくない、和夫のことは、あなたが正しかったわ。彼に好きなようにさせてたのは、私だった」

「別れたんでしょ、いいじゃない。白紙に戻ったのよ」

しかし、トリッシュは泣き始めた。「終わってない。あいつに処女をささげちゃった」

驚いた。しかし実際には、驚くべきことではなかった。現実から目をそらしていたとは言え、そうではないかと疑っていたはずだ。

「ある晩、酔っ払っちゃって、そうなったの」涙がトリッシュの鼻を伝い、シーツに落ちた。

レックスは、静けさの中で自分の呼吸が聞こえ、トリッシュの小さい泣き声が聞こえた。何と言えばいいのだろう? 何を考えれば?

「感覚が麻痺しちゃったみたい」トリッシュは鼻をすすった。「これ以上、何か感じないといけないの?」

感覚がない、という気持ちをレックスは理解した。「分からないわ」手を見つめた。

しばらく経って、トリッシュは立ち上がった。「行くわ」

「待って、行かないで」レックスは彼女に手を伸ばした。

「他にいてもらいたい人がいるでしょ」

「あなたにいて欲しいの」

「私に何ができるって言うの?」突然、トリッシュの声の調子が変わった。

「好きよ、トリッシュ」

トリッシュの顔はクシャクシャになった。ベッドにまた座り込み、掛け布団の下に頭を詰め込んだ。泣きじゃくっている。レックスは彼女の頭、肩をさわった。

落ち着くまでに、どれほど時間がかかっただろう。トリッシュは横になりながら壁を見つめていた。

「和夫のことで、神様に祈ってみようと思ったことがなかったの」

「私だって、オリバーのことで祈ろうとは思わなかった。神様に聞いてみようと思ったことが、一度もなかったわ。聞かないで、何でもやった。そしたら、どんどん悪い状況になっていったの」

ドアベルが鳴った。トリッシュは急に立ち上がり、トイレの方を見た。

レックスは立ち上がった。「行って。私が出るから」

ドアを開けると、女性の頭のてっぺんと、男性の胸の辺りが見えた。見下ろした。ああ、ミミか。目を上げた。誰だろう?

ミミが入ってきた。「レックス、マジでもっと大きい場所が必要ね」

「パブリッシャー・クリアリングハウスで当たったら考えるわ」

∗ヴァンナがするように、同伴者に手を振った。「ジャ、ジャーン!」

レックスは見た。トリッシュもトイレから出てきて、見た。

「それで?」

ミミは不機嫌になった。「この人、オリバーに似てない?」

レックスはその名前を聞いただけで、萎縮した。トリッシュはミミの方へ一歩踏み出した。

「あんた、頭おかしいんじゃない? 何やってんのよ」

「昨日の夜、おばあちゃんはレックスとオリバーが一緒にいるのを見たでしょ。それでこれは、彼にそっくりなトレイ」

トレイはレックスに微笑んだ。

「来週のウェディングにトレイを連れて行け、ってことね」

「大当たり!」ミミは顔を輝かせた。

「ちょっとだけトレイと仲良くしたら、おばあちゃんは資金を切らないわ。だって、そもそもゲス野郎を追っかけてる理由はそれでしょ?」

確かにそうだ。恐れを克服したかった。そして、オリバーは彼女のリストにぴったり当てはまっていた。しかし今は、バレーボールの女の子達がそんなに大事なのだろうか?

レックスがトレイをじっと見ると、カテゴリー四のハリケーンのようなパニックが、お腹の中でグルグル回り始め、喉を這い上がってきて、強く締めつけた。

そのしぐさを見たミミの笑顔が消えた。

レックスは、バレーボールの女子達を失望させることができない。どうしても。トレイが一緒にウェディングに行ってくれれば、これほどたやすいことはない。できるはずだ。彼の手を握ることができるはず——

唇を噛むと、血の味がした。目をかたく閉じた。鼻から息を吸った。吐いた。

「レックス」

目を開けて、トリッシュを見た。

「しなくてもいいのよ」ミミは頭を振った。

「できないわ。ごめんね、ミミ。せっかく来てくれたのに——」

「いいのよ。トリッシュに聞いたわ。無理しないで。大丈夫だから」ミミはうなずいて、トレイをアパートから追い出した。「本当に、大丈夫」二人は出ていった。

さて、レックスは中学生の女子らに話をしなくてはならない。

**********

できない。あんなに練習したのに、無理だ。

レックスはジムの外の駐車場で、車の中に座っていた——次の週から職場に復帰するために、ビーナスが手配してくれたレンタカーだ。閉まったジムのドアを見つめた。

あの子達をガッカリさせてしまう。完全に。

祈れなかった。祈らないといけないのに。(神様、お願いです。何とかしてもらえませんか?)

沈黙。しかし、数ヶ月前よりも、親しみ深い静けさであるような気がした。

(お願いです、何とかしてください)神様が何とかしてくれるのを待った。何もしてくれなくても、待った。

電話が鳴った。「ハロー?」

「ミミよ」

「どうしたの?」レックスは車を発進させた。

「住むところ、探してあげたわよ」

レックスは急ブレーキを踏んだ。「本当に?」

「そうよ……私のところ」

ミミの顔が見てみたかった。だって、声がいつもと違う。「あなたのアパートなの?」

「数ヶ月前にね、親がコンドミニアムを買ってくれたの。ルームメートが出てったばかりでさ……だから、越してくる?」

「どこに住んでるの?」

「南サンノゼ」

通勤が大変だ。だけど……「いくら?」

「タダよ」

「タダ?」

「ちょっと……オンボロだから。あなたさえよければね」

「屋根があって、ネズミが出なければ大丈夫」

「ああ、それだったら大丈夫。修理上手な男をルームメートにしようとも思ったんだけど、あなた行くとこないし、それに、もうすぐまた手術でしょ」

「うん」またビーナスに助けを頼んで、仕事の時間を犠牲にさせるのはどうかと、躊躇していたところだった。

「あなたのお世話もできるわよ。それに、元気になったらリフォーム手伝ってくれるでしょ」

この会話そのものがちょっと変な気がしたのだが、レックスは、さっき祈っていたのではなかったか?

「どうしてこんなこと、してくれる気になったの?」

ミミは咳払いをし、少し口ごもった。「だって、あなたは助けが必要で、私はルームメートが必要。あなた、力持ちでしょ。それに『信頼できる』いとこだから、知らない男と一緒に生活するより、あなただったら親が安心する。それに、私のボーイフレンドも盗まない。分からないわ、他にどんな理由を言えばいい?」

「なるほど」

「じゃあ、スポーツ観戦のチケットをくれる、っていうのはどう?」

「それだったら、できると思うわ」スカウトや同窓会の代表に頼めばなんとかなるだろう。

「じゃあ、契約成立?」

「いつ引っ越せる?」

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