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ひとり寿司第36章パート2

「ひとり寿司」をブログに連載します!

ひとり寿司

寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***

夜の空気はひんやりしていたが、彼女の怒りは冷めなかった。途中でシダの葉をピシャッとたたき、コイの池にかかった橋の方へと通路をどんどん歩いていった。

石の橋は、肌寒さを発散していた。レックスは身震いしたが、アーチを登って真ん中に立った。

「レックス」

最初、その声はエイデンだと思った。いや違う、オリバーだ。「君があの女の子と言い合ってて、こっちに向かったのを見たんだ。誰かいた方がいいかなと思って」

別に。だけど気がつくということは、彼はとても繊細な人だ。何故レックスは、彼にもっと感謝できないのだろう? 何故、彼のことをもっと好きになれないのだろうか?

オリバーは近くに来た。手が彼女の腕を軽くかすめた。「冷たくなってるよ」自分のスポーツジャケットを脱ぎ、彼女の肩にかけてくれた。

ああ、なんて気が利く人だろう。しかしその時、彼は彼女の腰に手を回してきた。

レックスは深呼吸して、筋肉を無理やりリラックスさせようとした。まずいことになってしまった。暗闇、親密さ。普段なら、このような状況に自分を置くことはしなかった。

しかし、これはオリバーだ。ボーイフレンド兼バレーボールのスポンサーになるかもしれない人だ。すでにキスも許した。こんなこと、何でもないはずだ。

どうしても、リラックスできなかった。

オリバーはレックスの緊張を勘違いして、彼女をもっと近くに引き寄せ、顔を自分の方に向けさせた。彼の口が彼女の口に降りてきた。

悪くはなかった——彼女が期待していたよりも、ちょっと強かったが。彼の手は、彼女の脇をもむようにさわっていた——これも、彼女が期待してたよりちょっと強かった。彼女が安心できるレベルを超えて、二人はエスカレートしていった。彼女は抑えようとしたが、その手は彼の指関節の上で横滑りした。彼は、彼女が期待している以上に彼女を近くに引き寄せた。

彼のキスは深くなり、その息が彼女の皮膚に当たる。違う、彼女はこんなことをしたくなかった。鳥肌が立ってきた——さわられ過ぎて。これ以上、さわられたくなかった。レックスにとって、これは非常に困難なことだった。まだ心構えができていなかったのだ。彼女は彼のキスから離れた。

「やめて、オリバー」

彼はまた唇を押しつけてきた。彼女は頭をねじり、彼を押した。「やめて」

「ああベイビー」彼は石の手すりに彼女を押し、体をくっつけてきた。

彼は彼女を捕らえた。彼女の体をなで回した。彼女はもがいたが、そうすると彼はもっと燃え上がるようだった。彼女の手首をつかみ、手すりに押しつけた。

「やめて、オリバー!」

「いつも君がリードできるとは思わないで」もっと押さえつけられて、息ができない。

(ああ神様、お願いです。助けてください)彼女は自分自身の中に縮み込み、一瞬、八年前に戻っていた。ほんの一瞬。

レックスは、思わず抵抗していた。かかとでオリバーの足の甲を思いっきり踏んだ。彼が一歩下がってかがむと、膝で彼の鼻を蹴り上げた。そして、彼を突き飛ばした。

レックスはヨタヨタと橋を下り、左に曲がって庭園から出る門に向かい、駐車場に出ようとした。門にぶつかり、掛け金をいじり回した。門を強く引いて開け、よろめきながら外に出た。

セメントの階段にヒビが入っているとは思わなかった。足をひねった。背中をひねった。膝をひねった——右膝を。

(ポン)

痛みのほとばしり。膝関節で水風船が爆発するように。

(嫌だ)

(嫌だ、嫌だ、嫌だ)

(神様、やめて)

(お願いです。やめてください)

(お願い)

レックスは曲げた脚をつかみ、膝を爪で引っかいた。関節が腫れ上がってくるのを止めることができるかのように。手を伸ばして、切れた靭帯を元に戻すことができるかのように。やってしまったことを、やってないようにできるかのように。

(ああ、神様)

叫んだ。音を出さずに叫んでいた。見えない。涙が暗闇と混ざり、ぼやけてきた。痛みは弱くなった。皮膚の中の小さいうずきを残して。

(ああ、神様)

(レックス、私はここにいる)

胸がつぶれた。うずくような痛みは硬くなった喉を過ぎて、鼻から、目から流れ出た。大きく開いた口から、叫び声が溢れ出た。

神様、彼女は何を間違えたのでしょうか? 何故、こんなことが起きてしまったのでしょうか? 彼女は、とても疲れていました。疲れ切っていました。

(休みなさい)

突然、自分に巻かれた腕を感じた。レックスは抱かれていた。

耳の中のごう音は、窓の網戸をなでるフジの花のように、ささやきに変わった。心臓は脈打ち、締めつけられ、そして解放された。温かみが、胸から腕全体に、そしてお腹の中まで広がった。

濡れた目で見上げた。誰もいないのに、まだ誰かの腕に抱かれている気がした。手が頭の上に置かれた。目を閉じた。

熱い涙が膝に落ち、脚を伝ってきた。砂利がお尻にささる。コオロギが鳴いていた。そよ風が涙をにがし、顔を冷やした。

サンダルでジャリを踏む音が近づいてきた。

「レックス!」

***

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