「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
36
誰かと結婚するとしたら、きっと駆け落ちだ。
クスクス笑うマリコのブライズメイドの後をついて、レックスはよろめきながらパゴダブリッジ・レストランに入った。泣きわめくティキの隣で四時間立ちっぱなし——マリコはレックスを列の最後に入れてくれたから、ありがたい——抜歯と同じぐらい喜ばしい経験だった。ノボケインなしで。
(ウェディングそのものは一時間だけ。よかった)リハーサルも終わり、あとはオリバーを見つけ、四時間ぶりに椅子に座って、祖母のおごりで高価なリハーサルディナー(結婚式リハーサル後の食事会)を楽しむだけ。
あと一週間で、ブライズメイドという拷問のような任務は終わる。結婚式が来週の土曜日ではなく、明日だったらいいのに。マリコがパゴダブリッジ・レストランでリハーサルディナーをすることにこだわったので、ウェディング前日の金曜日は、レストランが空いていなかったのだ。
ビーナスが先にレックスを見つけた。「あなた、気に入らないと思うわ」
「うそ——マリコったら、私をフィッツ叔父さんの隣にしたの? 私が食べさせてあげる、ってこと?」
「もっと良くない。あなたはトリッシュとジェンと一緒で、私は違うテーブルなの」
眼球の後ろで頭痛が爆発し、レックスは目を閉じた。「オリバーをつかまえて、帰ろうかな」
「手遅れよ、彼はもう食べ始めてる。もっとひどくなるわ」
「もっとひどくなるって、どういうこと?」
「ミミがいるの——」
「だけど、ミミとは最近うまく付き合ってるわ。少しは」
「あの子、エイデンをパートナーに連れてきたわ」
うっ。それはかなり最悪だ。突然、トリッシュとジェニファーのことはどうでもいいように思えてきた。「エイデンと会ったことなんて——」
ビーナスはうなずいた。「もう遅い。同じよ」
それは素晴らしい。レックスは食事を楽しむことなどできないだろう。ある男性との時間を楽しもうとしている一方で、本当は別の男性といたい。だけどその人はクリスチャンじゃないから、一週間、会うのを避けてきた。だけどこの五日間、毎晩その人とキスすることを夢見ている。
レックスは丸テーブルが嫌いだ。元気よく春巻をつつくオリバーと、お尻の軽いミミと楽しそうにしゃべるエイデンとの間で、押しつぶされそうだ。
レックスは、オリバーに笑いかけ、エイデンとミミの方はチラリとも見ずに座っていた。ラッキーなことに、トリッシュとジェンも——二人ともパートナーを連れてきていない——レックスと目を合わせるのを避けているようだった。
「はい、レックス」オリバーが春巻を回してくれた。「餃子も食べてみて——僕の祖母の味に似てる」
すると祖母が彼らのテーブルを過ぎていった。饗宴を監視する貴婦人のように。まず、八人がけのテーブルに集まっている叔父と叔母に温かい微笑みを送った。そして、ジェニファーとトリッシュに優雅に微笑み、二人は弱々しくニヤッとした。ミミにはわざとらしく微笑んだ。多分、彼女の消防車のように赤く、胸の割れ目を見せているピチピチのブラウスのせいだろう。
エイデンが礼儀正しく会釈すると、祖母の眉にしわが寄った。レックスは飛び越え——驚くことではない——興味深げにオリバーを見て、行ってしまった。
息を止めていたことにも気づかず、レックスは息を吐いた。オリバーがいても、祖母は彼女をいじめるために資金を切るのだろうか。二人が真剣に付き合うことになれば、祖母がいなくても彼が資金を援助してくれるだろう。それに彼は、好きになれないようなタイプでもなかった。
別のテーブルに、ウェイターがデザートを並べた——アイシング(飾りの糖衣)が一杯ついた小さい正方形のケーキ。ミミが立ち上がってケーキを取りに行ったので、レックスも後を追った。
「ねえ、エイデンのこと知ってたの?」レックスの声は、ちょっと悲しそうに聞こえただろうか? それとも、やきもち? 中傷気味?
ミミはケーキのスライスを見渡す前に、眉毛を釣り上げてレックスを見た。
「覚えてない? 手術の後、あなたのアパートへ行った時に会ったのよ」
ああ、あの惨めに横になってた時か。記憶が少し不鮮明だった。それとも、心があの時の記憶を締め出そうとしてるのかも。
ミミは、一切れのケーキのアイシングに指を突っ込み、なめた。「そうなの、メール交換してるのよ」別のケーキを取った。「彼ってキュートだと思わない?」飛び跳ねるように行ってしまった。
キュート? あの下品な顔にあのケーキを塗りたくったら、キュートだろう。
エイデンはキュートじゃない。嘘つきで、ずるく、高慢な裏切り者のゴキブリだ。そして、レックスは彼とキスすることを夢見ている。
「レックス」トリッシュが後ろから忍び寄ってきた。細い髪の毛の束を耳の後ろにかけ、ケーキを見渡している。レストランの照明のために、目の下のくまが、使用済みのリプトン・ティーバッグより大きく見えた。さっと瞬きして、心配そうにレックスを見た。
「彼氏は?」レックスは、トゲのある口調を和らげなかった。
「別れたわ」パーティの騒音のために、トリッシュの声はほとんど消された。
「それは残念ね」皮肉な言い方をしないように頑張った——本当に——しかし、惨めにも失敗した。
トリッシュは身構えた。「あなたに男がいて、私はいないから、今は、あなたの方が偉いわね。私は一人でもいいけど、あなたは、あなたのことを風変わりだと思わない人を探すのに必死だったものね」
レックスは鼻をふくらませた。「私はね、いつ教会へ行くべきだとか、友達と時間を過ごすべきだとか私に指示する人じゃなくて、私を尊重してくれる人を探したの——」
トリッシュはすすり泣き、大広間から走り出て、女性用トイレのドアをバンと開けた。テーブルでは、彼女が逃げていくのをジェニファーが見ていて、レックスに非難の目を送った。立ち上がって、トリッシュを追いかけた。
ここから出たい。レックスが反対方向を向くとレストランの裏にある、日本庭園に続くガラスのドアが見えた。
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