「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
「そんで、この高慢そうな奴が近づいて来て、『緑の牧場教会へようこそ。今日が初めてですか?』って言うの。だから、『当たり前でしょ』って顔をしたら、クリスチャンかどうかや、バイブルスタディに行ったことがあるか、ってベラベラ聞くのよ。挙げ句の果てに、ギリシャ語を習うべきだ、ってくどくど言い始めて。ギリシャ語よ!」レックスはレッグプレスに力を入れ過ぎて、空中を蹴ってしまった。
エイデンがそれを面白そうに聞かないよう努力しているのが分かった。「ギリシャ語を習うのは価値があることだと思うよ」
「もう、やめてよ。だから言ったの——」
「ヘーイ、エイデン。お前、どこにいたんだよ」アイクが、レックスのレッグプレスまで歩いてきた。「やあ、レックス」
彼をマットに投げ倒したい衝動を抑えた。この、二股男。「ハーイ、アイク」
「で、エイデン、僕とリンジーさ、二○分待ってたんだけど、その後、中に入って注文したんだ」
エイデンは静かになった——とても微妙で、レックスはほとんど気づかなかった。彼は肩をすくめた。
「ごめん、電話しようと思ったんだけど、携帯の充電が切れちゃってさ」
「気にするなって。また今度な。あの中華レストラン、美味しかったぞ」
「中華レストラン」と言ったところで、微妙にエイデンの仮面がずれたこと以外、レックスはアイクの言うことをほとんど聞いていなかった。
「いつ会うはずだったの?」繰り返しが始まるところで、動きを止めた。
エイデンは咳払いをした。「先週」
彼は、決して曖昧な言い方をしない。レックスの目が細くなった。
「水曜日だったよな?」アイクがお腹をたたいた。「あのバスコム通りのレストラン」
「はめたわね!」レックスはマシーンから飛び降りた。ウエイトが大きな音をたてて落ちた。
「おっと、落ち着いて!」アイクは一歩、下がった。レックスは彼を無視し、エイデンの方に進んだ。彼の表情が変わってきた。ショックから打算、罪悪感から後悔へと。
「アイクがリンジーといるところを見せたかったのね」
「僕たちがいるとこ、見たの? 何だよ、それ」アイクが青白くなった。「あ、やば」
「あなたって——急に向きを変え、アイクの方へ一歩進むと、彼はフリーウエイトの棚の方に後ずさった——バカね。もともとチャンスはなかったのよ。それにあなた——」そこに突っ立っているエイデンの方を向いた。「——おばあちゃんと同じぐらいひどいわ」
アイクではなく、彼をマットに押し倒したい強い衝動を抱きながら、彼女はそこに立っていた。エイデンにだまされるなど、思ってもいなかった。彼だけは、正直だと信頼できる人だった。そもそも、これは「エペソ」のリストの初めの方に入れたことではなかっただろうか? 正直であること? 嘘をつかないこと?
「アイクとリンジーが来る、っていうのは知ってたさ。二人に会わせようと思って君を連れてったんだ。だけど、二人がベタベタし出したのは、僕のせいじゃない」
「見てたのか?」アイクはジムのベンチに飛び乗った。「なんてこった」
「暗い駐車場に可愛い女の子と一緒にいたら、こいつがどんなことをする奴なのか知るべきだと思ったんだ」
エイデンの仮面が落ちて砕けた。「本当にこんなやつと付き合いたいの?」アイクに向かって腕を放り出した。
レックスは、こんなに動揺しているエイデンを見たことがなかった——バレーボールのコートの中ですら、彼がこんなに怒ったことはない——しかし、彼女も、燃える怒りが静脈を伝わってきた。「あなたには関係ない。私が決めることよ」
「全て自分が主導権を握りたいタイプだからね」
「あなただって、そうじゃない」
「おい、お前ら」アイクが二人の間に立って、腕を伸ばした。「ちょっと言い方がきついんじゃないか。オープンに話そうじゃ——」
「うるさい!」「黙れ!」
「オッケー」手をあげて、後ろに下がった。「明らかに僕は必要とされてないみたいだね」
「騙されたくないの」レックスは何かをつかんで彼の頭を叩きたかったが、ウエイトはちょっと致命的だ。
「そこにいる遊び人に騙されたほうがいい、って言うのか? 僕は君を守ろうとしただけなんだ」
「私に——」レックスは歯ぎしりした。確かにそれは親切なことだが、それに感謝できる気分ではなかった。「もう私にかかわらないで」スロープを降り、左に曲がって待合室へ向かった。
せっかく出たのに、女性用ロッカールームにバッグを忘れて戻ってきた。エイデンがいる場所を再度通り過ぎながら、彼を激しく睨みつけた。
鼻を真っ直ぐ上に向け、レックスは外に飛び出した。
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