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ひとり寿司第32章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


32



エイデンは深呼吸し、ドアをノックした。

「どうぞ」

中に入りながら、不法侵入者になった気がした。「先生、前にお会いしたことが——」

「覚えてるよ」牧師は手を振って、エイデンを招き入れた。

作り笑顔もなく、何かを売ろうとしているセールスマンに似たところは微塵もない。牧師は、デスクの前の椅子を身振りで示した。

「エイデンです」姓はない。「また壁の絵を見にきました」

「いくらでもどうぞ」

前の時と同じように、お腹を蹴られるようだった。本当の肉体的な痛み。ただの絵を見てこうなることは、予想もしていなかった。「誰が描いたんですか?」

「別の教会が画家を雇って礼拝堂に飾ろうとしたんだが、出来上がったものが……ちょっと衝撃的すぎた。それで、僕が買ったんだよ」

「それはどうして?」

「君なら分かるよ」牧師の率直な声は、中立的なままだった。「君は、もう一度見るために戻ってきたんだから」

エイデンはじっとしていられなかった。足を引きずった。「僕は……」

「言いたくなければ、何も言わなくていい。また見にきてもらっても、全然構わないし」

この人の目に見える誠実さ。エイデンは、突然、それがいかに自分と異なるものかに気づいた。彼は、いつも何か閉鎖されていて、制御されたものの中にいた。「先生はこれを見て、何を感じられますか? 見ていると、慣れるものですか?」

その絵を見る牧師の目は、悲しんでいるようだった。「慣れないね。一生慣れることがないよう祈るよ」

エイデンは何も言わなかった。手を伸ばして、キリストの体に突き刺さった釘をさわってみた。

「キリストの苦しみは、いつも私の苦しみ。これを忘れてはいけない。忘れたくない。苦しんでいる人には、手を差し伸べ続けたいと思う」ため息をついた。「いつもそんな風にできるとは限らない。うまくいくことより、失敗することの方が多いんだよ」

「どうしてそうしようと思うんですか?」

「しないでおく余裕がない。彼を見て」その絵に懇願するように、手を伸ばした。「このお方は諦めないから」

エイデンは頭を振った。「僕には訳が分かりません」

牧師は肩をすくめた。「信じるようになれば、分かるんだよ。僕が言えるのは、それだけだ」

「もっと分からなくなりました」

椅子に深く腰掛けた。「何日かかけて、考えてみてくれるかな。そのあと、どう思うかを教えて欲しい」

「僕と議論するつもりなんですね」

「しないよ」実際、エイデンが牧師の小さい事務所に立っている間、ずっと、彼は議論しようとしなかった。

「また来るかもしれません」エイデンはドアのノブを回した。

「いたければ、いてもらっていいよ。僕が出ていった方が落ち着くのなら、出ていくから」彼は熱心でも、押しつけがましくもなかった。ただ、淡々としていて、澄んだ目でエイデンを見た。

エイデンは、ここまで率直な人に会ったことがなかった。自分もそうありたい、とさえ思った。「いいえ、十分に見させてもらいました。ありがとうございます」ドアを閉め、教会のロビーへ向かった。もしかしたら、また来るかもしれない。

「リンジー、スィーティ」

アイクの声が聞こえ、エイデンは、フロントロビーに飛び出す前に立ち止まった。角からこっそり見た。

アイクは軽くリンジーの肩を抱いていた。つぶやいている言葉は、エイデンまで届かないが、明らかにリンジーは、その言葉を聞いて喜んでいた。

先日、エイデンは、アイクがPTでレックスに言い寄っているのも見た。

驚くことではない。ジムの男性用ロッカールームでアイクが話しているのをよく聞いていたからだ。アイクが、女の子を取っ替え引っ替えすることも知っていた。女の子の間を行ったり来たりする彼は、そこにいる女の子なら誰でもいい、というタイプだった。

今日はリンジー。明日はレックス? そんなことをしていいものか。

しかし、エイデンはレックスを守る義務はない。彼女が間違った男を選んだとしても、彼には何の関係もない。

アイクはリンジーの手を取り、脇のドアから出ていった。

エイデンの口の中に、胆汁の苦味が残った。無理やりあごをリラックスさせて、歯を食いしばるのをやめた。

レックスは弄ばれていい人ではない。

(リンジーだったら守りたいと思わないだろう)

レックスは彼のものではないが、友達だった。

(彼女は、僕が彼女の人生に干渉することを決して望まないだろう)

彼女は決して知ることはないだろう。

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