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ひとり寿司第27章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


27



「頑張って! もっと早く! ペースを落とさないで」レックスは、ブロッキングのドリルをしている女子中学生らに手を叩いた。

ヴィンスが用意してくれた椅子には座らず、立ち上がった。腰が痛くなるからだ。CPMマシーンのために、腰はさらにひどくなった。女の子達のダッシュ、ブロック、ダッシュ、ブロックを見ながら背中を丸めたが、凝った筋肉は、ねじれてもっと硬くなる気がした。

「いいわよ! 切り上げましょう!」

「もう?」アシスタントコーチが、ささやこうとして近くに傾いてきたので、一歩離れた。

「ちょっと痛すぎて……」レックスはそれを認めながら、彼の顔を見なかった。ざらざらしたプラスチックの椅子を指で突っついて、不満の波をしずめた。投げるもの、叩くもの、壊すものは何もなかった。手術がコーチングの能力に影響するとは、思ってもいなかった。

「レックス?」

「何?」二人の女の子——十三ヶ月違いの姉妹——の方を向いた。

「この夏、プレイオフに行けないんです」姉の方が鼻をすすった。「行きたかったんだけど」

「どうしたの? 何かあった?」

「祖父の具合が悪くて、母が行って欲しくないって」妹の方は唇を噛んだ。

(何てこと。この子たちの夏はどうなるのだろう)

「大丈夫よ。おじいさんと一緒にいてあげて。そうするのがいいと思うわ」

二人がギアを脱ぎに行った後、レックスはこの忌々しい椅子に沈み込んだ。プレイオフに行けない子がもっと出てきたら、チームが作れない。祖母に支援を頼む必要もなくなるということか。ボーイフレンドを見つける必要もない。それに、いいガールフレンドになれる気もしなかった。

背中を伸ばそうと身を乗り出した。彼女はボロボロだった。彼女のチームもボロボロだった。

(私はすでにチームを失望させてる)

いや、そんな風に考えることはできない。この敗北主義的な態度を振り落とさなくては。予言を自己達成することになってしまう。

背中をさらに伸ばした。彼女だって、PTに行って膝を強くしようと頑張っている。女子チームをもっと強くすれば、抜けた選手はプレイオフに必要なくなるだろう。できるはずだ。

できるはずだ。

ああ、疲れた。またイブプロフェンを飲まなくては。

**********


アパートの縁石の前でエイデンを待ちながら、レックスの胃はかき乱された。胃が空っぽなのにイブプロフェンを飲んだからだ。究極の愚行だった。食べ物のことを考えるだけでも痛い。さらにひどいのは、背中の痛みが少しもよくならないことだった。

エイデンの車が入ってきたので、それに乗り込んだ。車を発進させた彼は、顔をしかめた。「どうしたの? どこが痛い?」

何で分かったのか? 「背中よ」

「ちょっと具合が悪そうにも見える」

「空っぽの胃にイブプロフェンを飲んだの」

「なるほど、ベッドの中に頭を置いてきたんだね」

「もう、うるさい」

「はい、パンでも食べて」後ろの席に手を伸ばし、彼女の膝に新しいローフ・パンをおいた。「今朝、買ってきたんだ」

二切れ飲み込むと、窓から頭を出したいという欲求はおさまってきた。

「それから、背中って……」エイデンは、クリニックの駐車場に入った。「新しい怪我?」

「古い怪我。腰が痛いの」レックスはぎこちなく車から出た。装具をつけているのと、背中の痛みが組み合わさって、アヒルのように優雅な動きだ。

「どこでそうなったの?」

「昔の職場の椅子が悪くて」

エレベータのボタンを押しながら、エイデンは顔をしかめた。「イブプロフェンでよくならない?」

レックスはエレベータに入り、ハンドレールにもたれた。「あまり」

エイデンはとても静かになった。彼女のことを観察し、目は探している……何を? やっと結論に達したようだ。

「君がよければ、助けになるよ」

「どうやって? 点滴に鎮痛薬でも入れるの?」

エレベータのドアが開いた。「マッサージできるよ」

踏み出した足が途中で止まった。筋肉が締めつけられ、腰がズキズキした。レックスは、エレベータから出るのを待ってくれているエイデンをじっと見た。エレベータのドアが閉まり始めたので、開けておくために彼は手を突き出した。

エレベータの外に出た。「分からないわ、エイデン」

「あのさ、何で男に触られたくないのか言う必要はないけど、僕が脚をさわるのには慣れただろ」

二人はジムのドアを通り、レックスは受付のカウンターでチェックインした。クレジットカードの伝票にサインをしながら、背中の筋肉をリラックスさせようとした。皮膚は過敏になり、Tシャツが擦れるのを感じた。

「そうだエイデン、お友達のスペンサーから電話があったわ」受付嬢はメッセージを書いたメモを渡した。「一時間後に来るそうよ」

「ありがとう」メモを手に取って、顔をしかめた。

レックスは、チラッと見ようとした。「何かトラブル?」

エイデンはメモをくしゃっ、とした。「いいや、それで、どうする?」

彼の目の中を見ると、そこにある穏やかさのために、胸の中にある震えがおさまっていった。彼はエイデン。彼女のセラピストだ。この恐怖症を何とかしなくては。

「分かったわ」

レックスは何かが爆発するか、ハレルヤコーラスみたいなものが起こると予想していた。しかし、そのいずれも起こらなかった。ただエイデンのゆっくりとした、心強く優しい微笑みだけだった。

別のセラピストが、肩の手術を受けた患者を担当している場所から少し離れたところに、治療台をセットした。そこに、彼女をうつ伏せに寝かせた。

そっと横になると、肩が痛み出した。すると、囲炉裏の火が腰の上でパチパチ音を立てた。それはだんだん弱くなったが、筋肉の緊張は、緩めることができないように思えた。

「Tシャツの上からマッサージするからね」エイデンの声がレックスの上で浮いている。脚を伸ばしているのに、彼はこれまで以上に近くにいるようだ。だから、微かな石けん、モミ、ジャコウのにおいがするのかもしれない。そのために、落ち着くことができた。肩甲骨は少しリラックスした。

これはエイデンだ。レックスは、彼を信頼した。

腕のマッサージに入った——安全な場所だ。びくっとするのを止めることはできなかった。彼は、優しくもむ動作を肩まで続けた。

一瞬、記憶が戻った。デート相手の息を、首に感じる。逃げ出そうとするうちに、肘と手がアパートのカーペットの上で熱くなった。彼の手は彼女の腕を押さえ、顔がカーペットに押しつけられている。こぼれたワイン、カビ、鼻を突く食用油のにおいを吸い込んだ。

ガタガタ震え出した。「やめようか?」

「だ、大丈夫」これと戦わなくては。

エイデンは続けた。「長く、深く呼吸して」

レックスはそれに従った。モミと、一筋のジャコウ。この匂いで肺を一杯にし、きれいにされていくのを想像した。

ゆっくりと、もんでいる彼の手に集中した。彼の忍耐にはびっくりした。彼女はいつも猛烈なスピードで動いていたというのに。

彼が腕のマッサージを終えた頃、その両手が彼女の肩をさわっていたのにビクッとしなかったこと、それが気にならなかったこと、それが怖くなかったことに気がついた。彼は、彼女の首に丸を描くようにさすった。とても気持ちがいい。頭蓋底の緊張は消えてなくなっていた。目の後ろの痛みは、和らいで初めて痛かったことに気がついた。背中には触ってもいないのに、背骨の付け根にあったコリコリは、少し小さくなった。

彼は指で圧迫し、丸を描き、押した。問題の場所に降りてきたのもほとんど気がつかなかった。背中のねじれは緩み、熱は冷めた。モミのように冷たく、一筋のジャコウのようにリラックスしている。

「はい、終わったよ」

痛みは完全にはなくなっていなかった——少し敏感な部分を感じる——しかし、何週間かぶりに、もっと滑らかに動くことができた。背骨は、骨と骨が擦れる老朽化した塊のようには感じなかった。

体を起こした。「ありがとう、エイデン」この言葉には、無限の意味が込められていた。

一瞬、彼の目が彼女の目と合い、レックスは分かった。言わなくても、彼には全て聞こえていたことを。プレードウ(工作粘土)のように一緒に丸められ——身体的感覚にも似た——引き伸ばされているような不思議な感覚だった。瞬きをしたら、その感覚は消えてしまった。

しかも、レックスはプレードウが大嫌いだった。

治療台から降り始めた。

「何やってるの?」

「どういう意味?」

「まだ終わってないよ。気分が良くなっただろうから、次はエクササイズだ」

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