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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
(「さようなら」を言う時が来た)
レックスは、古いオーク製のドアに付けられた変なドアノッカーの形、歪んだ窓、たるんだ屋根の輪郭を目に焼き付けた。大学生の時に三人のいとこと一緒に住んだ貸家と、ほんの少しの間、一人だけで住んだコンドミニアム——そこでの暗い記憶——を除けば、この家だけだった。母はここで亡くなった。もう一度、母をそこに置き去りにするような気がした。
ビーナスがトランクをバタンと閉めた。「これで全部?」
「うん、お父さんが収納ユニットを買って、残りの段ボール箱は昨日、そこに持って行ってくれたの」レックスの持ち物を全て別にしてくれたのだ。
レックスが自分の古いホンダの助手席に乗り込む間に、ビーナスは運転席に座り、シートベルトを付けた。「本当に私の車でいいの?」
「私のはトランクが小さいから、二回往復しないといけないでしょ」
「ちょっと重すぎて心配」
「大丈夫じゃなきゃ困るわ」ビーナスがエンジンをかけた。エンジンはかかったが、止まってしまった。
「だから言ったじゃない」古い車の女神にマントラを唱えるように、レックスは手を突き出した。
ビーナスは意地悪そうに横目でレックスを見た。「ちょっと、大人になってよ」ダッシュボードを叩いて、キーを回した。
ホンダは生き返った。
「何したの?」
「車はね、祈りよりいじめに反応するのよ」
フリーウェイに乗っている間、車が駄々をこねた。特にビーナスの速度では。普通の道に降りてからも反抗し、煙を吐き出し、赤信号を出る時は、必ずガクンと動いた。ノロノロと新しいコンドミニアムの敷地の私道に入った頃には、ホンダはうめき、パチパチ音を立てていた。
ビーナスはドアをバタンと閉め、さびたボンネットの上でレックスに指を突き出した。「こんな車、よく乗ってるわね」
レックスは腕を広げた。「新車を買うお金があると思う?」松葉杖をつきながら、管理人の部屋に向かった。
陽気なヒスパニック系の女性がグレーの巻毛を軽く叩いて直しながら、ニンニクのにおいをさせて、ドアに出て来た。
「こんにちは、レックス・坂井です。一階のコンドミニアムを借りることになってます」
「ああ、そうそう。待ってたのよ。あら、膝の怪我? どうりで一階がいいわけね。気にいると思うわ。以前の所有者は犬を飼ってたんだけど、七年前に出てったから、もう、におわないでしょ。はい、これが鍵——でも松葉杖じゃ持てないわね。一緒に行くわ。吊り鉢に気をつけてね——ああ、あれが引っ掛かったかしら? あそこにあるミセス・デラローザのパンジーには気をつけてね。あそこで息を吸っただけで死ぬんじゃないか、って思うこともあるんだけど、ミセスが怒るの。ああ、パークスさんの犬は心配しなくてもいいわよ。セキュリティドアの外には出てこられないから、噛むより吠えるの。パークスさんは、必ず一日に二回散歩させてるわ。はい、ここよ。ドアを開けるわね。はい、どうぞ。ようこそ!」管理人の女性はドアを勢いよく開け、ヴァンナ・ホワイトの指輪のようなのをつけた指を揺らした。
カビくさい——長い間空き部屋だった。バスルームに続く廊下はちょっと狭いかもしれないけれど、ベッドと段ボール箱を置くには十分な床スペースがある。毛足が短いカーペットはシミがついているが、清潔だ。壁にも同じことが言えた。小さい簡易キッチンが壁全体を占めていた。
「ええ……大丈夫です」レックスは礼儀正しく微笑もうとした。
「ああ、お友達があなたの荷物を持って来てくれたのね。それじゃ、お邪魔しないように失礼するわ。これが鍵ね。カウンターに置くわ。何か必要なものがあったら、いつでも聞いてちょうだいね」逃げていった。
すごく、よくしゃべる人だ。親切だが、詮索好きかもしれない。
ビーナスは敷居をまたいで、立ち止まり、じっと見た。顔をしかめないよう努力した。「レックス、本当にこれでいいの?」
「私に選択肢があるっていうの? 他のところは予算に合わなかったのよ」
「ゴミ捨て場みたいじゃない」
「ビーナス、『愛をもって真理を語り』はどうなったの?」
「これは愛よ。私がこの段ボール箱をここに放り込んだ後、あなたをここに置き去りにしないで手伝ってあげるんだから、あなたはラッキーよ」
冗談だとは分かっていたが、レックスは、この薄汚い環境に押し潰されそうになった。
ビーナスは、持っていた箱を隅においた。「ベッドのパーツを持ってくるわね」軽いから彼女一人でも大丈夫、よかった。
ビーナスが出ていった後、開いたドアに頭が見えた。「ハーロウ?」
「ハイ」レックスは笑って挨拶した。シワクチャの丸顔、丸い体型、巻き髪にしたグレーの髪の毛すら中国系ベーカリーのパンのように丸い。
彼女が笑うと目がなくなり、口は膨らんだ餃子のような形だ。「私、ミセス・チャング。となり」
ビーナスとジェニファーの父親が中国人なので、少しだけ言葉が分かった。「ニーハオ、マ?」
ミセス・チャングはケラケラと笑った。「あなた、アクセントひどい」
レックスは笑った。
「ジャパニー?」
レックスはうなずいた。
「あなた、シュウドウフ食べる?」
何だろう? レックスは肩をすくめ、頭を横に振った。
「少しあげる」ミセス・チャングはいなくなった。
アルミニウムのベッドの枠を一つ持って、ビーナスが現れた。「お隣さん?」
「そう思う。中国人よ」
「広東語かマンダリンかどっち?」
「知らないわ。どっちがどっちか分からないもん」
ビーナスはお尻に手をおいた。「どうして分からないの? トリッシュは分かるわよ。一〇〇パーセント日本人なのに」
「これはね、五○パーセントの日本人の血から来てるの」
「お父さんがマンダリンだけでも教えてくれてよかった」
「トリッシュは、歌を歌うから分かるのよ——音楽的な耳を持ってる。私が分かる音は、バレーボールが跳ね返ったかと、グシャッとつぶれたかだけ」
ビーナスは不本意ながら、面白がって鼻先で笑った。
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