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ひとり寿司第20章パート2




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


**********


「ウエーッ。見られない。吐きそう……」

ビーナスの苛立った鼻息。「見なくていいの。目を閉じてて」

「だけど開けたら、見えるのは茶色いベタベタだけ。ウグッ……」レックスの胃は、吐くべきかどうかが分からないように迷っていた。

目をかたく閉じ、泥風呂に深く沈んだ。確かに熱がとても気持ちよかった。昔の腰の負傷——会社の椅子のせいだ——は、背骨の底に押し込まれた岩のような感じがしていたが、泥の中で体を伸ばすと、その圧迫感がゆっくりと退いていった。

ビーナスが自分の泥風呂の中で位置を変えている、べちゃべちゃした音が聞こえた。「気持ちいいでしょ?」

このベタベタしたものに浸かっていると、心が行きたくないところへふらりと行ってしまう。トリッシュは何故逃げたのか。駐車場に取り残されたときの苦痛。

(もうやめよう。楽しいことを考えなきゃ)脳みそはその願いに応じず、マリコのブライダル・シャワーに戻っていった。そういえば、この泥は少し——

「リラックス!」ビーナスは叫んだ。

「そんな声の調子じゃ、リラックスできないわ」

「そんな顔してたら、あんたが何か心配してるのが見え見えよ」

ビーナスの方を向いた。「お父さんが家を売った、って聞いた?」

「聞いてない。いつ?」

「水曜日。二週間後には出ないといけないの」

「どこに?」

「今探してるとこ……」レックスはもっと真剣に住む場所を探さないといけない。多分、コンドミニアム全部ではなく、一軒家のひと部屋を借りられるだろうか。「ワサマタユのトライアウトに呼ばれたことは言ったっけ?」

「すごいじゃない! いつ?」

「二週間後。問題は、高い前金」

「トライアウトのためにお金取るの?」

「選ばれなかったら戻ってくるの。入れたときにちゃんと払えるかを確認したいんだと思う」

ビーナスが泥の中に深く沈んだ。「私が払ってあげる」

「ダメよ!」

ビーナスはのんびりと横目を流した。「大丈夫よ」

ゲーム開発の会社でトップから二、三レベル下という、高いポジションにいるのは知っているが、ビーナスに借りを負いたくはない。「ダメよ。お金を貯めたから」

「それはコンドミニアムの頭金にするんでしょ? そのために、我慢してお父さんと一緒に住んできたんじゃなかったの?」

「五%の頭金には足りないし。夏の女子チームのプレイオフのためにも十分じゃないの」レックスがモゾモゾ動くと、泥が磁器製の風呂桶の脇に飛んだ。「だから、ワサマタユのために使おうかな、って思い始めてる」

「プレイオフのために使って、少し足りない分を集めた方がいいんじゃない?」ビーナスが厳しい目つきを投げた。

レックスにとってワサマタユは、バレーボール選手としてのキャリアの頂点にあるものだが、高級ジム会員のビーナスには決して理解することができないだろう。「ワサマタユの会費は私だけのためじゃないの。このクラブはお金持ちでスポーツ志向のヤッピーが集まってるわ。チームのスポンサーを見つけるには完璧な場所なの。女子チームのプレイオフの費用なんて、彼らが銀行に持ってるお金と比べたら些細な額なのよ。税金控除にもなるし」

「確実に誰かに頼める、ってわけね。だけど、ちょっと賭けじゃない?」ビーナスの声は冷静だ。

「彼らはアスリートだから、話が通じるの。私のジレンマも分かってくれるだろうし、喜んでチームのスポンサーになってくれると思うわ」

「あなたがそう言うんだったら、そうなのかもね」

ビーナスの懐疑的な態度がレックスに決意させた。「いい考えだと思う。ワサマタユのためにお金を使うわ」

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