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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
やっと終わった。レックスを見て彼女らが笑っている間、レックスはしかめっ面をして立っていた。ドレスを見て笑っているのだと、どうすれば信じられるのだろうか——マリコはやっとうなずいて、レックスの体からトイレットペーパーを剥ぎ取り始めた。
「あ! 気をつけて!」緑のコンタクトが、自分達の創造物を保存しようとした。
レックスは、彼女の瞳孔が縮むのが見えるほど顔を近づけた。「ただのトイレットペーパーよ」
「じゃあ次のゲームは、下着当てクイズよ!」ティキはサディスティックな笑いを震わせた。「マリコのためにセクシーな下着を持ってきてって、みんなに頼んだわよね——それがここにあるわ——誰が持ってきた下着なのかを当てるの!」
ティキは、子供の頃に頭をぶつけたのだろうか? この狂ったゲームは一体、何?
タヴィが金切り声を上げている——すごい、この子はずっと泣き続けている——マリコがレックスの方を見た。「レックス、あなたが先よ」
「いやよ」レックスはあごを突き出した。
マリコは、短刀が飛び出すような目でレックスを見た。
レックスは、そのレーザービームのような眼力で、「資生堂」の顔を穴があくほど見た。
マリコが一歩、レックスに近づいた。
(リ、リ、リーン!)
携帯電話に助けられた。祖母の友人の息子からの電話であったとしても、大歓迎だ。
もしかしたら……見覚えのある番号だったが、思い出せない。「もしもし?」
「レックス、エイデンだ」
レックスは、マリコに向かって明るい笑顔を輝かせた。「ごめん、ちょっと話さなきゃ」キッチンへ逃げた。
「ハーイ、エイデン、どうしたの?」冷蔵庫の中をのぞいた。もしかしたらマリコが、にんじんスティックを入れてるかも……
「君、僕の携帯持ってるよ」
額が棚の角をかすめ、レックスは背を正した。「どういう意味? 今話してるじゃない」ヒリヒリする皮膚をさすった。
「君の携帯からね」
レックスは電話を見た。あれ? 「どうしちゃったのかな?」
「覚えてる? 昨日バレーボールで? 一緒に電話に出たの」
「ああ、そうだった」レックスは、電話に出ずに放り投げたのだった。電話をバッグに入れた時も気がつかなかった。
「今どこにいる?」
「クパティーノ」
「近くにいるから、電話を交換しに行ってもいい?」
「もちろんいいわよ!」(おっと、落ち着いて、落ち着いて)「ああ、別にいいわよ」
「住所教えて」
日曜学校の子供達が元気よく言うように、レックスはマリコの住所を暗唱した。「道順分かる?」
「いや、だけどナビで見るよ。迷ったら電話するから」
あの忌々しい下着ゲームが終わるまで、リンゴをもぐもぐ食べながらキッチンでうろうろしていた。そして、じっとしていないタヴィを抱えながら、誰かが入れてくれた、シロップのようなパンチを飲もうとしているミスター・ベビーシッターの隣に座った。
彼はコップを差し出した。「ちょっとこれ、持っててくれる?」
「いいわよ」コップをつかんだ。
ミスター・ベビーシッターは、まっすぐ伸ばした腕を揺らしながら、泣き叫ぶベビーを抱えている。タヴィの泣き声は、耳をつんざくような遠吠えへとエスカレートしていった。
レックスの方を向いたミスター・ベビーシッターの目は、純粋なパニック状態だった。「赤ちゃんの扱い方、知ってる?」
「知らないわ」ティキの甘やかされた赤ん坊をレックスが虐待してくれたら、彼はいくらでもお金を払うだろう。
タヴィは一瞬止まり、口を大きく開けてゲップをした。濁ったよだれが垂れている。
(ウエーッ)リモコンを取ろうとするときの父より早く、レックスは目を背けた。マリコが何か病的に甘い香りをふりまきながら、そばを通った。虐待にさらされたレックスの胃はグルグル鳴った後、おさまった。
タヴィは落ち着いてきて、すすり泣きと荒い鼻息、しゃっくりだけになったが、とても湿った、ドロドロした、気持ちの悪い音を立て始めた。よだれかけには、黄土色のよだれの大きいシミがついている。(考えちゃダメ!)レックスはタヴィを見なくていいように、片目を閉じようとした。
鼻で浅い息をしていたのだが、何か明らかな嘔吐物の臭いを吸ってしまった。吐き気を催した。
「マリコ、ちょっと気分が悪いの」
マリコはレックスを睨みながら、頭を傾けた。手でお尻を支え、鎖のように腕輪をジャラジャラ鳴らしている。「そこから動かないで」
「嘘じゃないわ、マリコ」
ピンク色のグリッターがついたエクステがレックスに狙いを定めている。「じっとしてて」
また吐き気がしてきた。じっとしていれば、おさまるかもしれない。
溢れ出る液体のような音。手に温かいものが垂れ、スラックスにしみ込んでくる気がした。
(見ちゃダメ、見ちゃダメ、見ちゃ—— )
吐いたニンジンのにおいがレックスを襲った。ショックで目が、ぱっと開いた。
黄土色のものが手に、腕に、脚全体にはねた。なんてラッキー。タヴィは、まだ嘔吐物を噴出させている。
胃が沸騰してきた。内臓がかき乱されている間、手で口と鼻を押さえ、冷静に落ち着いて考えようとした。
不幸にも、手の中にシロップのようなジュースが入ったコップがあるのを忘れていた。ジュースは、そこら中に飛び散っていた。
ほとんどはタヴィのよだれかけと、この子の頭、そしてミスター・ベビーシッターのパンツに飛んだ。それから、マリコの家の床にも。
「きゃーっ!」マリコの突き刺すような叫び声が、レックスの体に響いてきた。
体が動かない。ニヤッ、と笑うタヴィの黄土色の顔を見て、震える手でお腹の真ん中を押さえた。
ティキがタヴィの方へ走ってきたが、ミスター・ベビーシッターがこの赤ん坊を押しつけようとすると、腕をカナリアのようにバタバタさせて立ちすくんだ。「キャッ……ウゲッ……あの……」
「レックス、どうしてこんなこと?」緑のコンタクトが周りをグルグル歩いていたが、タヴィの振り回す腕にあたらないよう距離を置いていた。「赤ちゃんだから」
「始めたのは彼よ」レックスは赤ん坊が自分の手に吐いたものを、ミスター・ベビーシッターのパンツで拭こうとした。
「おい!」彼はレックスから離れた。
「どうせ、もう汚いんだから、いいじゃない」
「君もそうだ」
うーん。確かに。あぁ、大変だ。「気持ち悪くなってきた」
彼らの周りにできた輪は、風船より早く大きくなってきた。ミスター・ベビーシッターは、混乱した目でそこにいる一人一人を見回した。「誰か、この子を頼む!」
レックスは、ミスター・ベビーシッターの方向に吐こうとした。
「自分のパンツに吐け!」
ドアベルが鳴った。
緑のコンタクトが、レックスに指を振った。「頭を足と足の間に入れるのよ」
レックスは涙が溢れてくる目で彼女をにらもうとした。悔しい。具合が悪くなるといつも、涙が出た。今は泣きたくない、この人たちの前でだけは……
「レックス・坂井さんはいますか——?」
(エイデンだ)
彼は明るい太陽を背にして、開いたドアのところに立っていた。輝くよろいをまとった騎士だ。
「助けて」レックスはしわがれた声で言った。
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