Skip to main content

ひとり寿司第17章パート4




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


**********


レックスはビーチが好きだったが、砂は嫌いだった。砂だらけになる。今もそうだ——靴の中や靴下の中、そしてショーツのウエストバンドとスポーツブラの中にまで入ってくる。

そして、なぜこれほどバカなのか、彼女はバレーボールのドリルをやり続けた。

いや、バカではない。熱心なだけだ。トライアウトに呼ばれると仮定して、ワサマタユに入るという目標に集中する必要があった。もっとシェイプアップしなくては。

昨日のランチに食べた香港スタイルのヌードルは、本当に無駄だった。

横方向のシャッフルを終えてストレッチ、息が切れる。近くのビジネスパークから吹いてくる風が涼しく、屋外のバレーボールネットが揺れていた。日光のために砂が温かくなり、トースターオーブンのように熱を発散させていた。

レックスは、ネットでブロッキングのドリルをしようと準備した。天候にさらされているこの古いネットは、そのビジネスパークにある会計事務所が提供してくれたもので、二つのポールの間で垂れ下がっていた。レックスにとっては十分だ。しゃがんで、ジャンプした。

ネットが肘にピシャッと当たった。(イタッ!)ズキズキする痛みが腕を伝って降りてくる間、彼女はじっとしていた。一時間前の護身術クラスの時に、もっと注意していれば——打撲が彼女のパスに影響しない限り、大丈夫だ。

声が聞こえてきたために、ためらった。背筋が硬くなった。

広い駐車場では、アジア人、インド人、白人が混じった三○代の男性のグループが、サンドバレーボールのコートに向かっていた。いや、近くのバスケットボールのコートの方だ。

そのほとんどが、ショートパンツとスニーカーという服装だったが、ビジネスカジュアルのスラックスとポロシャツの人が数人いた。夕方、その辺りにいる人を適当に集めてやる試合だから、多分会社の同僚だろう。気にすることはない。

レックスの方をチラチラ見ている人がいた。それは本当に何の意味もないことだろうか?

(やめよう)

(沢山いる。群集心理というものがあるのだろうか? ニューズウィークにも昔そんなことが書いてなかったか?)

(気にしすぎだわ)

レックスは一人だった。

(バカげてる)

車に乗って、そこを離れた方がいいのではないだろうか。

(トレーニングしなきゃ、何の害もない人たちなんだから)

レックスは深呼吸をして、灰色でボロボロのネットを見つめた。彼女はなんて無力なのだろう。

深くかがみ、三回続けてブロックの動きで飛び跳ねた。一歩横にダッシュし、また跳んでブロックを三回。それをネットの終わりまで続けた。

ポールのそばに立って息を吸った。ネットは金属のポールに当たってはためきながら、静かに響く音を立てている。その男性グループはバスケットボールのコートに着いて、ストレッチを始め、フリースローの練習をしている。しゃべる声はほとんど聞こえてこない。温厚そうな冗談や、やじぐらいだ。

だから、レックスはリラックスした。彼らは、彼女の兄、男性のいとこや友人のように見えたし、そのように聞こえた。昔はよく、男性のいとこたちがキャンベル公園で集まってゲームをしたものだった。レックスは自分も入れて欲しいとせがみ、彼らをやり込めたっけ。

駐車場での動きが目に留まった。

長身で髪の毛がぼさぼさの白人男性——木綿のボタンダウンシャツとスラックスは、一日の仕事の後でシワシワだ。レックスをじっと見ていた。

首から腰まで降りてきた乱暴な震えを隠そうと、目が固まった。

知り合いではなかった。細面の顔と不揃いの髭は、レコーディング・アーティストのデイビッド・クラウダーを思い出させたが、多分そのビジネスパークのテック会社で働いているのだろう。アインシュタインのようなIQと博士号を二つ持っていても驚くことではない。何故、レックスを見つめ続けているのだろうか。

レックスは、向こうまで歩いていって、面と向かって言おうかと考えた。勝手に女性をジロジロ見続けるなんて、許されるものではない。口を閉じ、砂のコートを出た。

車の警笛。SUVが視野に飛び込み、砂のコートの近くにとまった。心臓が一瞬ドキドキしたが、出てきたのはエイデンだった。何故だろう、早い心拍数はおさまらない。

ミスター・サンタクルーズとの喧嘩を始める必要はなさそうだ。「何してるの?」手で日の光をさえぎった。

「やっぱり、ここにいたんだね。スタンフォードのバレーボール・クリニックでさ、ここでドリルをやるのを勧められたんだ。日系リーグの選手もこのコートのことを言ってた」

「うん、タダで使える砂のコートってあんまりないからね」

「僕も入れてもらっていい?」

ダメな理由があるのだろうか? もっと長く、もっと激しいトレーニングができるかもしれない。そうすれば、最高のコンディションでトライアウトに臨めるだろう。「ウォームアップして始めるわよ」

砂の上でダッシュ、ブロック、アタック、飛び込みのドリルを一時間やった。エイデンは、スタンフォードのバレーボール・クリニックで覚えた新しいドリルを知っていたので、レックスもさらに頑張った。クタクタになったが、終わった後の気分は最高だった。

砂のコートとの境界になっている草の上に座り、水をがぶ飲みして、顔を流れる汗を拭いた。エイデンの優れた肺活量は尊敬に値するものだった——レックスの方が苦しそうに呼吸をしている時もあった。そういえば、走るのが趣味だと言ってたな——

「新しい仕事はどう?」エイデンは素足から砂を払い落とした。

首の付け根のコリコリが硬くなった。エイデンは、彼女がキンムンと話していたときに、彼女の仕事のことを聞いていた。「まあまあよ」いつ言われても不思議ではない……(チケット取ってくれない?)

「エンジニアリングとは違うだろうね、絶対」

「そうね」

エイデンは彼女の目を真っ直ぐに見た。「君や僕みたいにラッキーな人は少ないよ。大好きなことを仕事にしていて、それがうまくできる」

エイデンの眼差しは温かみがあり、理解力があるように見えた。レックスは元気が出て、同時にリラックスしてきた。首のコリコリはなくなってしまった。「そんなに理学療法(PT)が好きなの?」

彼はうなずいた。「忙しいよ。膝の手術をした患者がトレッドミルでジョギングするのを見て、手根管の患者がジムマシーンでウエイトを上げるのを見る」

レックスにとって、PTは癒しではなく、負傷を連想するものだった。「素敵ね」

「君は一日中、スポーツの話をしていられる。まるで、君のために作られた仕事だよね」

その通りだった。レックスは初めて、最近起こった人生の紆余曲折の中に、神の御手を垣間見た。神様と会話をする時間をあまり取っていなかったのだが、それでも神様は働いてくださっていた。不思議だ——その御手の中にあるという安心感と同時に、思っていたほど自分は自立していないし、主導権を握ってもいないという不安を感じた。

あっという間に三○分以上話していた。レックスは不承不承うちに帰ることにした。引越しの準備をしなくてはならない。色々と物が多すぎるので、早く始めるに越したことはないだろう。

エイデンに手を振って、車が動き出した後だった。彼がチケットのことを一言も持ち出さなかったことに気がついたのは。

携帯が鳴った。うちからだ。「お父さん?」

「ああよかった、つながって。レックス、不動産屋と話したところなんだ」

「もう売れたの?」

「それだけじゃない、指し値もすごくいいんだ」

「よかったわね、お父さん」もっと嬉しそうに思わせようと頑張った。

「なんだが、買い手はエスクローを早めることを要求してるんだ」

「どういうこと? 早めるって」

「申し訳ない、レックス。二週間で出ていかないといけない」

***

電子書籍
アメリカKindle
日本Kindle
Apple Books
Kobo/Rakuten
Google Play
印刷本
アメリカAmazon
日本Amazon

Comments

Popular Posts

Lavender hand lotion

Captain's Log, Stardate 11.05.2009 I have to tell you, I LOVE Etsy.com ! Etsy is dedicated to providing a marketplace for people who like to make handmade products and people who appreciate them (and buy them). It has everything from handmade gifts (like my mom’s Bucilla Christmas stockings and ornaments and tree skirts and wall hangings and … well, just click here to see what she has! ) to soaps and lotions and jewelry and knitted items and hand-painted yarn and ... I could surf that website for DAYS. Anyway, lately I’ve been concerned about the lead content in my lotions, especially since I’m using them more now that it’s turned colder and drier here in California. I have to use lotion on my hands everytime after I wash them. So I went onto Etsy and searched for organic hand lotions, and bought this lavender lotion from Lue Cosmetics . What was really nice is that the owner, Jane, sent me a direct message via Etsy right after I made the purchase to ask if I’d received it yet and ...

Brainstorm - character occupation

Captain's Log, Stardate 03.23.2009 Hey guys, I could use some help. In my current manuscript, The Year of the Dog , which is a humorous contemporary romance, I have a minor character, Eddie. He’s my heroine’s ex-boyfriend, and they’re on good terms with each other. He’s a bit irresponsible, but not so much so that he’s a complete loser. He’s got a very easy going attitude, he forgets to pay his bills sometimes, he’s friendly and charming. He’s adventurous and fun to be around, but he’s a little forgetful sometimes, and he tends to spend a little outside his income. I need an occupation for him. What would a charming, easy going, slightly irresponsible guy do for a living? He’s not too irresponsible, because otherwise readers will wonder what in the world my heroine saw in him to date him in the first place. She was attracted to his charm, his easy going attitude (her family’s uptight, and he was a nice contrast), and his adventurousness. But his forgetfulness and irresponsibility ...

Chinese Take-Out and Sushi for One

Captain’s Log, Supplemental My agent sent me an article from Publisher’s Weekly that discussed this incident: Chinese Take-Out Spawns Christian Controversy And here’s also a blog post that talks about it in more detail: The Fighting 44s This is Soong-Chan Rah’s blog: The PCS blog In sum: Apparently Zondervan (yes, my publisher), who has partnered with Youth Specialties, had put out a youth leaders skit that had stereotypical Asian dialogue, which offended many Christian Asian Americans. In response to the outcry, Zondervan/Youth Specialities put out a sincere apology and is not only freezing the remaining stock of the book, but also reprinting it and replacing the copies people have already bought. I am very proud of my publisher for how they have handled this situation. The skit writers have also issued a public apology . (I feel sorry for them, because they were only trying to write a funny skit, not stir up this maelstrom of internet controversy. I’ve been in youth work long enou...

Tabi socks, part deux

Captain's Log, Stardate 07.25.2008 (If you're on Ravelry, friend me! I'm camytang.) I made tabi socks again! (At the bottom of the pattern is the calculation for the toe split if you're not using the same weight yarn that I did for this pattern (fingering). I also give an example from when I used worsted weight yarn with this pattern.) I used Opal yarn, Petticoat colorway. It’s a finer yarn than my last pair of tabi socks, so I altered the pattern a bit. Okay, so here’s my first foray into giving a knitting pattern. Camy’s top-down Tabi Socks I’m assuming you already know the basics of knitting socks. If you’re a beginner, here are some great tutorials: Socks 101 How to Knit Socks The Sock Knitter’s Companion A video of turning the heel Sock Knitting Tips Yarn: I have used both fingering weight and worsted weight yarn with this pattern. You just change the number of cast on stitches according to your gauge and the circumference of your ankle. Th...

I GOT A CONTRACT!

Captain’s Log, Stardate 03.29.2006 I had a wonderfully funny blog post planned for today, but I got sidetracked by some news yesterday! Zondervan has offered me a three-book contract on my Asian chick-lit series ! I’m still stunned by everything that’s happened. The series is actually a 4-book projected Asian chick-lit series about four cousins who fall under the infamous family title "Oldest Single Female Cousin," and their ruthless, wealthy grandma applies pressure on each of them to improve their lack of love interests. I think the first book is tentatively scheduled to be released in August 2007. The blurb on the series is on my website here . Brandilyn Collins posted to the ACFW loop about my writing journey, and Tamara Cooper asked that I share it. And since you all know how much I like to talk , here it is. My writing journey: Like most writers, I have wanted to write since I was very young. (In high school, I wrote a fantasy novel that will never see the light of day ...