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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
16
エイデンは身体中が痛かったが、なぜか気分はとても良かった。
ジルとのペッパー練習(対人レシーブ)。力強く、いいフォームで動けている気がした。この夜は、もっと自信を持ってレシーブ、セット、アタックができた。土曜日にスタンフォードのバレーボールキャンプにも通っているし、今夜はこれまで以上に日系リーグを心待ちにしていた。
「レックスは?」彼女のことだからとしても、ちょっと遅い。
ジルはボールをレシーブしないで取った。「電話があったわ。残業だそうよ。今日は来ない」
ほんの一秒前と比べて、腕は力強く感じなかった。その場で少しジョギングしてみたが、エネルギーは戻ってこなかった。
(レックスは単なる仲間の一人。そんなに気にするのはやめよう——)
実際、気にしていなかった。全くと言っていいほど。彼女のことはほとんど知らなかった。コートの中にいたりいなかったりする、ただの可愛い女の子だ。それだけ。エイデンは、可愛い女の子に目を留めただけだった。
(こんばん遅くに来るかなあ?)
アタックラインではとても調子が良かった。彼のアタックはもっと正確で、手とボールの間のコンタクトもずっとよく、回復基調を超えるほどいいコントロールだ。それに気づいている人は、他に誰もいなかった。
(レックスだったら気がついたのにな)
そうだ、しかしレックスだったら、打ち損なったアタックも全て気がついただろう。
(彼女のことを考えるのをやめるんだ。名前も思い浮かべてはダメだ)
試合が始まった。エイデンは、最初のパスをそらせた。
エイデンは常に冷静だった——他の選手のように罵声を浴びせることもしない——しかし、自分の顔が、欠けた大理石のように硬くなっているように感じた。
できるはずだ。
「ああ見て、レックスよ」キャロルは、まだ仕事着で、ハイヒールの音を立ててコートの後ろを歩く姿を指さした。
「みんな元気?」レックスは手を振って、観客席に腰を下ろした。
「出ないの?」ジルは睨んでいる審判を無視して、彼女の方を向いた。
「うん、出ない」落胆の表情の中で、口が歪んだ。「うちに服と靴を置いてきちゃった。帰ってたら時間がなくなるわ」
「早く!」審判が、しびれを切らして笛を吹いた。
(そうだよ、早くしよう、みんな)エイデンはキャロルから離れ、ポジションに戻った。一体いつからこんなに負けず嫌いになったのか? レックスの影響に違いない。
その時、エイデンの目に彼らが映った——白人男性二人、リーグでは見ない顔だ。彼らは試合を見ずに、二人だけで立っていた。
レックスを見ながら。
笛が鳴った。エイデンは試合に集中力を戻そうとしたが、それて自分の方に流れてきたパスをもう少しで受け損なった。
「エイデン、取って!」
彼のトスはネットに近すぎて、相手チームのブロッカーはボールを叩き返した。
二人の白人男性のうち一人が、レックスの方を身振りで示した。もう一人がうなずいている。
レックスは彼らに気がついていた。怒っているような、用心深い顔つきのために、表情が暗い。歩いていってパンチを浴びせようか、それとも精神科に電話をして拘束衣を持って来させようか、決心がつかないようだ。
妙なことに、二人の男性はストーカーには見えなかった。アスリートのような体格をしていた。ビジネスカジュアルの服装でなければ、バレーボール選手の中に紛れていただろう。
「エイデン、あなたよ!」
(試合に戻れ!)サーブを受けようと腕を突き出したものの、ネットの近くに行きすぎた。ジルは飛び上がって、叩き上げようとしたが、ネットに引っかかって、落ちた。
二人の男性は出口に向かって歩いていった。筋肉が緩むまで、エイデンは、自分の肩が緊張していることに気がつかなかった。
笛が鳴った。サーブ。後衛がいいパスを送った。キャロルが彼の方に曲線を描くようなトス。エイデンは跳んだ——
エイデンは、ブロックに入ると思われる相手チームのその男を知っていた。長身で、腕が長い。彼を通り越してボールを叩きつけられるとは期待していなかった。
エイデンは腕をスイングしたが、手首を曲げたので、ボールはブロッカーの指の上で転がった。勢いよく回転するボールは、コート中央に素早く落ちた。ウィングの女子二人がそれを取ろうと両側から飛び込んだ。
得点、サイドアウト。
「ナイスショット」ネットの下で、ブロッカーとエイデンは手を叩いた。
「サンキュー」
向こうのサーブ。相手チームは、同じ選手にトスを回した。彼のボールをねじ込めることは期待できなかったが、エイデンはキャンプで覚えたブロックをやってみた。(コートで自分の場所を守ればいいだけ)
(バン!)ボールは手をかすめ、高く弧を描き、パスが楽になった。ジルは、またエイデンにボールを回した。目の端に、前衛二番目の選手が、少し遅れてダブルブロックに入ったのが見えた。エイデンが急角度で叩いたボールはサイドラインに落ちた。
副審がポールの脇に立っていた。「ナイスカット」
「どうも」
レックスの叫び声が聞こえた。エイデンが振り向くと、彼女は手を叩きながら、彼に笑いかけていた。
彼に笑いかけていたのだ。
エネルギーが溢れてきて、足がピクピク動いた。天井より高く跳べそうだ。いいゾーン、いい調子、エイデンは燃えていた。
次のサーブ——相手チームはボールをそらし、それを戻さなくてはならなかった。キャロルがトス、ボールは高く弧を描いた——
エイデンは好機を捉えた——ブロッカーはラインショットをオープンにしている。ボールを叩いた。
(バーン!)相手チームの女子が地面に倒れた。
心臓が止まった。不安が胸の中で渦を巻いている。息が詰まり、荒い息を吸い込んだ。(自分は何をしてしまったのか?)
ネットの下をくぐって、彼女の方に走った。「ごめん」
彼女はぼんやりと天井を見ていたが、ひどい怪我のようには見えなかった。
ただ、彼女の鼻の上と左目の上に、「タチカラ」(ボールのブランド名)の字がくっきり描かれていた。
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