Thursday, April 07, 2022

ひとり寿司第15章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


15



出勤初日。(失敗しませんように)

レックスはもう一度、SPZのロビーに入ることになった。今回は、受付デスクに元気な二○代ぐらいの子が座っていた。「アレクシス・坂井です」

受付嬢は名前を入力した。「さ・か・い、ですか?」

レックスは瞬きした。「ええ」

いわくありげな微笑みが返ってきた。「私、四分の一、日本人なんです」受付嬢はスクリーンを眺め、受話器を取った。「デイビスさん、坂井さんがロビーでお待ちです」相手の話を聞き、そして受話器を置いた。「デイビスさんはこれから会議があるそうなので、終わったら会いに来られるそうです。代わりにグレイ・マイヤーズさんが来ます」レックスの名札を印刷した。「これは、セキュリティバッジができるまでの仮のバッジです」

「いくらお給料もらってるんですか?」(やってしまった)なんと軽いレックスの口。「ごめんなさい——」

受付嬢の顔は、礼儀正しく無表情になったが、茶目っ気たっぷりにきらめいた。「会社の受付としてはいい方ですよ。その辺のエンジニアぐらいと同じぐらいの給料を要求しましたから」

レックスは弱々しく笑ったが、膝が震え始めた。ラッセルは、彼女のどこが気に入ったのだろうか? リエゾンとして、自分はどんな資格があるのだろう? 受付デスクの端を強く握り、その硬い表面に指を食い込ませようとすると、指先の痛みが心地よい。

「アレクシスさん?」背が高く痩せた若い男性が、受付デスクの角を周ってきた。トイレ用クリーナーを買おうとしているかのように、その淡い目は、平然と彼女を査定している。

「レックスです」(気持ち悪い)濡れたティッシュの束を握りしめるような握手だった。

「グレイです。君と同じチーム」

最高。一人目の同僚は、すでに(逃げろ! 逃げろ!)という雰囲気を醸し出している。

グレイは、半分下がったまぶたの下からいたずらそうな目つきで見た。「で、同窓会リエゾンの経験はあるの?」

(何これ、また面接?)思っていることが口から飛び出す前に、あごを堅く引き締めた。受付嬢を見ると、こっそりあきれた表情をしている。それを見たら勇気が出た。「ラッセルさんが、私の経歴のいいところを見て、いい仕事ができると思われたみたいです」そうそう、親切でそつがない言い方だ。

グレイはデスクの後ろの階段へと案内した。「ちょっと興味があっただけ」

(興味? 信じられない)

一緒に階段を昇った。「前任の同窓会リエゾンは、ジュディ・バロニー。産休あけに辞めたんだ」

「それは残念でしたね」

グレイは肩をすくめた。「別に」

レックスは階段でつまずいた。彼はバカにするような目で見た。

「その方のこと、好きじゃなかったんですか?」神様はこれをゴシップだと考えるだろうか? だが、ジュディの犯した失敗を知っておかなきゃ。それを繰り返さないためにも。

グレイはまた肩をすくめた。「見かけが魅力的だっただけ」

「今、何て?」グレイが明らかに気配りをしないため、レックスの気配りも崩れ去った。

「ジュディはスポーツのことをあまり知らなかったから、同窓会の連中も彼女にあまり敬意を表さなかったんだよね」一瞬見せた厳しい表情は、消えた。そして、注意深く、面白味のない目でレックスを見た。「社内で数人の男性社員が、競ってこのポジションへの移動を希望したんだ」

(なるほど)だが、レックスはジュディ・バロニーではない。「ラッセルさんは、確かに正しい人を採用したみたいですね」

グレイの目つきが固まった。「タイ・アンダーズが言ってたよ。ラッセルが君を採用したのが信じられない、ってね」

タイ? クラブで会った、あのミスター・ハンズ? 「変ですね。タイさんとは面接してないし、履歴書も渡してませんけど。彼の採用基準は、ダンスが上手かどうかってことですか?」レックスはグレイに対し、歯をむき出しにした。もう少しで、うなり声を上げて吠えるところだった。

驚いて一瞬目が大きくなったが、グレイが考えていることは、あの、けだるそうに半分閉じた目の中に、また隠された。肩をすくめた。

レックスは不快な気持ちになった。即刻クビになるぐらいだったら、ペアにいた方が良かったな。

二人は、キュービクルが押し込まれた大きい部屋に入った。たくさんの男性の声。ウォールストリートのトレーダーが出てくるような映画を思い出した。もちろん、全員が電話中ではなかったが——。

「レックス、こっちがダンとブラウン」彼女が見えた時、その白人と黒人の男性は会話を中断した。レックスは、思惑に満ちた眼差しで床に釘付けにされた気がした。

鉄の棒で脊椎を叩きつけられた気がし、レックスは鋭い眼差しを返した。

「チームへようこそ」ダンの声は、脅しを紡ぐ糸のようだ。

「仕事は沢山あるよ」ブラウンの厳しい目は、筋肉質に見えるスーツの上でピクピク動いた。その細い手で、小さいあごをかいた。

レックスは腕を組んだ。「忙しい仕事には慣れてますから」(気をつけた方がいいわよ、偉そうに。腕相撲でもしましょうか)

ブラウンは、ガリガリの上腕を曲げた。

レックスは、指の関節をボキボキ鳴らした。

グレイが、テストステロンとエストロゲンの決闘を中断した。「君のオフィスはこっちだ」

(オフィスがもらえるの?)ブラウンを牽制中のレックスは、まだ歯ぎしりしていたので、それを口にして、無知をむき出しにしなかった。ここの男性社員らは、彼女の男性のいとこ達に似ている。十分パンチを交わして、彼らの弱点を突く方法は分かっていた。

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