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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
12
レックスの頭はグルグル回り始めた。トリッシュがいるはずの生物学研究室のあたりを行ったり来たりしていると、各研究室から化学物質がにおってくる。トリッシュの上司にばったり出くわさなければ、レックスは彼女を探すため、まだ研究室の周りを徘徊していただろう。
バイオ技術研究ビルに続く日当たりの良い通路を歩いたが、暖かな日を楽しむ気分ではなかった。トリッシュは、またしばらく教会に来ていない。考えてみれば、もう数週間、彼女と話していなかった。いつもはもっとよくおしゃべりするのに。何かあったのだろうか?
レックスは、エスビルのロビーに続くガラスのドアを開け、その場で立ち止まった。「ここで何やってるの?」
エイデンは振り向くと、鳥インフルエンザウィルスの感染者に会ったかのように、後ずさりした。「や、やあ」
レックスは、誰もいない受付デスクのカウンターをのぞき込んだ。「ブザー鳴らした?」
「五分前にね」彼はもう一度ブザーを叩いた。「これで満足?」
「満足」
「君こそ、ここで何してるんだよ?」エイデンは純粋に知りたがっているように見えた。
「トリッシュを探してるの」
一瞬、エイデンの顔に警戒心が光ったが、その後、あのお米のように味気ない表情になった。「トリッシュって、ここで働いてるの?」
エイデンは自分の表情をコントロールすることができる。彼を怒らせたらどうなるのだろうか、とレックスは思った。
「このビルにはいないわよ。あれっ、また会いたくなったとか?」レックスはニヤニヤ笑った。
彼の眉毛がピクピクした——その穏やかな仮面にできた割れ目のように。「どうも君たち二人から逃げられないようだね」
「何それ」レックスはショックを受けているふりをした。「ストーカーはあなたでしょ」
「君は、僕の後でこのドアを通ってきたんだよ。僕を一人にしてくれないのは君の方なんじゃない?」
彼は彼女をからかっていた。レックスは笑った。もしかしたら、最初に思ったほどつまらない人ではないのかもしれない。
受付嬢が、研究室からロビーに入る磁気で施錠されたドアをカチッと開けた。「ご面会ですか?」
「トリッシュ・坂井さんをお願いします」
「スペンサー・ウォングさんをお願いします」
受付嬢はトリッシュとスペンサーに電話をかけ、受付に来客がいることを早口で告げた。
最初に来たのはスペンサーだった——長身で恰幅がいいアジア系の男子、チョウ・ユンファとラッセル・ウォンを一つにしたようなハリウッド系の顔立ちをしている。レックスのことをチラリとも見なかった。
「ヘイ、エイデン。腹、減ってる? 今日はあまり時間がないんだ。やらなきゃいけない分析があってね」彼らはガラスのドアから出て行った。
数分後、トリッシュが磁気で施錠されたドアを通って来た。「ハーイ、レックス。今日はどうしたの?」
「ランチ行かない?」
「もちろん、中に入ってて。実験終わらせるから」
レックスは、トリッシュの後をついて、また別のにおいがする研究室に入った。トリッシュはラボ用の上着を着用し、数メートル離れたところにある椅子を指さした。「このピペットが終わるまで、そこで待っててくれる?」天井のパイプを通って空気を吸い込んでいる大きな差し込みフードの前に座った。
「何でわざわざここまで来たの?」繊細な機器と、フードの中の液体キャニスターを操作しながら、その騒音より大きい声で、トリッシュは叫んだ。
「ここに来たら確実に会えるでしょ。どうして電話に出ないのよ?」
トリッシュは、表情が見えないようにレックスに背を向けていたが、トリッシュの沈黙が全てを物語っていた。
「どうしちゃったの。最近、教会にも来ないし」
「実はさ……和夫と付き合ってるんだ」
「あの日本人のウェイター?」
「うん」
「日曜日の朝も?」
「そうなの……朝ごはんを食べに行くのよ」
心の隅で、黒い疑惑がレックスを悩ませたが、それを口にはしなかった。無視すれば、きっと実現しないだろう。「へえ」
「おばあちゃんに会ったわよ、二週間ぐらい前。ホビーズで朝ごはんを食べてた時にね」
「どんな様子だった?」
トリッシュは横目で見た。「レックス、おばあちゃんはモンスターじゃないのよ。トモヨシ夫妻と朝ごはんを食べてたわ」
(大変だ)レックスは、心臓が突然一〇キロの重みで胃の底まで落ちた気がした。手で頭を抱えた。「どんな話をしてた?」
「そんなの知らないわよ。挨拶しに行っただけだから。あなたのこともちょっと言っといたわ。必死でスポンサーを探してるって——」
「トリッシュ!」レックスは椅子から飛び降りた。「うそでしょ?」
「何が?」
「スポンサー探しのことを、おばあちゃんに言ったってこと」
トリッシュは口を尖らせ、眉を寄せた。
「ああ、私、スポンサーって言った? 彼氏の間違いよ。そうそう、彼氏を探してるって言ったんだった」しかし、トリッシュの声の震えと青くなった顔は、その反対だと告白しているようだった。
レックスは思い出した。トモヨシ氏の突然の心変わり。ジムの曖昧な「ノー」。他の自営業者からも丁寧に断られた。
祖母の金融サービスは誰にとっても非常に頼りになるため、その影響は日系アメリカ人社会の中に深く根付いていた。レックスのスポンサー勧誘になびかないよう警告し、賄賂を贈り、圧力をかけるために、祖母が自営業者に連絡を取っているのは明らかだ。
「トリッシュ、どうしてそんなことを?」
「うっかり間違えちゃったの」トリッシュは下唇を噛んだ。「どうする?」
レックスは二、三回深く息を吸ったが、お腹の中の煮えたぎりはおさまらなかった。「おばあちゃんと話すわ」
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