Thursday, January 20, 2022

ひとり寿司第11章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


11



哀れなほど短い面接だった。彼らは、企業で受付嬢としての経験がないのに受付の職に応募したレックスは完璧な能なしであることを確認するような質問を二つか三つ尋ねた後、彼女がドアを出るときには、そのドアが背中に当たりそうなスピードで、彼女をドアの外に追い出した。

彼らが立ち上がって手も握らず、挨拶もしなかったことは、唯一の救いだった。だから、右手で問題なくできそうな握手を、わざわざ左手でする必要もなかった。ロビーに出ると、反対側に女性用トイレがすぐに見つかった。開いたままになっているドアの前に、(床の清掃中)とスペイン語で書かれた黄色いサインがあった。

中をのぞくと、無愛想に見えるヒスパニック系の清掃業者の男性が見えた。「ちょっと手だけ洗わせてもらえますか?」

「ダメダメ、危ないよ(スペイン語で)」

「手を洗うだけなんですけど」

「ノー、滑るよ(スペイン語で)」

「お願いですから使わせてください」

「オーマイゴッド! サインを見れば分かるだろ! (スペイン語で)」

ダメということだろう。男性用トイレに向かうと、ちょうど誰かが出てくるところで、別の男性が中にいるのが目に入った。ダメだ、こっそり入って洗面台を使うことはできない。

トイレから反対側の壁に、大きいソファが二つ並んでいる。レックスはそこまで歩いて、座り込んだ。

「待って!」男性の声がどこからともなく聞こえた。

(——グシャッ)

ふわふわで心地よい椅子——特に、モダンで活気のある色の布張り——グシャッ、となるはずではなかった。皮膚の温度より冷たいものがスカートの中にしみこんできた。

レックスは肘掛けを手で押して体を持ち上げた。手のひらがベタベタだったのを思い出したが、もう遅い。布張りの毛玉が、ネバネバする手のひらの残留物にくっついた。

スカートがお尻にくっつき、不快でぬれた感じがした。

ポロシャツとスラックス姿の四○代ぐらいの男性が近づいてきた。「大丈夫? ついさっき、清掃業者が椅子のクッションのしみ抜きをしているのを見たんだよね」

トイレよりここの方が産業用クリーナーのにおいが強いことに、レックスはやっと気づいた。振り向いてクッションを見ると、サイケデリックな色調。レックスはとたんに頭痛がしてきた。「水の跡が見えなくなる布地なんですね」見たくもなかったが、体をひねってチラリと見た。

「そんなにひどくないよ」彼は顔を赤くして横を向いた。彼女のお尻をじろじろ眺めるべきではないことに、やっと気がついたのだろうか。もともとそんなに見応えのあるお尻でもないが。

指輪をはめた左手に——(なんだ、既婚者か)——擦り切れた革のブリーフケースを持っている。ラベンジャー・ドット・コムで見るようなバッグで、折り返しのところに色あせたインディアンのバッジが付いていた。スタンフォードの古いマスコットだ。「すごい、それ、どうやって手に入れたんですか?」

彼はブリーフケースを前に出した。「すごい? 引退したフットボールのコーチからもらったんだ。同僚はみんな羨ましがってるよ」

「私も羨ましいです。スタンフォードがそのマスコットを引退させたときは、まだ産まれてませんでしたけどね」

彼の目が好奇心で光ったように見えた。「スタンフォードへ行ったの?」

「いえ——そこまで頭が良くないので。私はサンノゼ州立大学です。いとこはみんなバークレーなんですけどね」

彼は頭を傾けた。額に少しシワがよった。「バークレーファンにしては、スタンフォードのこと、よく知ってるんだね」

レックスは肩をすくめて、決まり悪さを隠そうとした。いとこの男の子たちが、レックスのスポーツ狂をからかうときのことを彼の口調から思い出したのだ。

そして、なぜそこにいるのかを思い出した。ここはSPZ。シリコンバレーのスポーツメッカだ。ネット上で最大のスポーツ系存在。そしてレックスも、誰にも負けないぐらいのスポーツバカだった。(そうだ!)「どこの学校に行かれたんですか?」

「僕はサクラメント州立」

「ああ、じゃあ昨日のゲーム見ました? ロイドが五○点に届くかと思いましたよ」

「あのファウルはひどかったよね」

「ソーントンはステュワートを休ませるべきでした。足首の怪我の後は、あまりいいシュートをしてません」

「彼にコステロをつけたジェーミソンは賢かったね」

「そうそう、あれは見事でした。スチュアートはチャンスを失くしましたから」

彼の率直で真剣な目から、エイデンを思い出した。だがこの人の方が厳しく、洞察力がある。「UCデイビスの野球は今年どうだったと思う?」

「がっかりでした。主要選手は、去年みんな卒業して、新しいコーチは新人を育てていません。だけど、レスリングチームは調子がいいですよ。全国大会へ行くと思います」

「君、大学のスポーツのこと、よく知ってるね」彼の穏やかな口調は、その洞察力のある目とは対照的で、レックスが言うことを聞くだけではなく、彼女の答えを求めて表情をうかがっているように見えた。

「スポーツが好きなんです。兄と父だけの家庭で育ったので」

「失礼だと思わないで欲しいんだけど、ちょっと驚いたよ」

レックスは少し浮かない顔になった。

「そうですよね、アジア人なら医者か弁護士、それか、エンジニアになることを期待しますよね」レックスのいとこ達のように。彼らは学業に秀でることを強要され、固定観念をあおっている。

「面接でここに来たの?」

汚れたブラウスを見下ろして、レックスは顔をしかめた。冷たい手のような疾風がスカートの中に入ってきたような気がした。「あの……受付の面接です。本当は製造エンジニアなんですけど、SPZで働きたいといつも思ってて、足掛かりになると思ったので」

「そうか」彼が微笑むと、広い口の周りにシワができた。「僕はラッセル・デイビス」手を差し出した。

「レックス・坂井です。正直に言いますけど、私と握手しない方がいいですよ」

「レックス、名刺ある?」

フォリオをめくった——兄が自分の余った名刺を一枚、彼女にくれていた。手が汚れていたからって、別にいい。ラッセルに名刺を渡した。

「ありがとう。話せてよかったよ」

「私もです」レックスはラッセルが去っていくのを見送った。何というプロフェッショナルな態度。彼女の見かけやにおいとは対照的だ。肩のにおいを嗅いでみた。もちろん、まだゴムタイヤと車のオイルのにおいがする。

すごくいい人だったな。彼が採用担当だったらよかったのに。

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