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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
何で~! 遅刻だ!
レックスは自分のオンボロ車に飛び乗り、ドライブウェイから車を急発進させた。プロレーサーのように勢いよく車線を変えながら、ハイウェイ85号をサニーベール方向へと走った。
デアンザ通りでハイウェイを降りた。SPZの巨大な四角いビルが目の前に立っている。右側のレーンに飛び移った——
(キキキキーッ! ガツッ!)
右前方の衝撃のために車が横に滑り出した。胸が剥ぎ取られるように痛い。そして、不気味なほど静かになった。
太陽が明るい。音は聞こえない。それに、なぜ息が出来ないのだろうか?
あえぎながら息を呑んだ。そして、もう一度ゴクリ。耳は機能を再開し、後ろの車が鳴らすクラクションの音が聞こえた。
胸が痛い。心臓麻痺を起こしたのだろうか? 違う、面接用に着ていたブラウスの薄い生地にシートベルトが食い込んでいて、胸骨の上が、ひりひりする。
これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ。
相手のドライバーは、エベレットのように恐ろしい顔つきをした年配の男性で、船乗り以上に口が悪かった。議論の余地がないほど自分に非があるときは特に、何も言ってはダメだ、という父の警告をレックスは思い出した。保険の情報を交換した。
ラッキーなことに、その事故は小さいショッピングモールの駐車場に入る入り口から一メートルも離れていないところで起こった。駐車スペースまでその小さい車を押していくに足りる体力はあった。
ただ、面接の時間を三○分過ぎていて、ゴムタイヤのにおいが洋服に染みついている。
ひとブロック先にあるSPZのビルまで、レックスはゆっくり走った——ハイヒールでできる限り早く、よろけながら——ガラスのドアを勢いよく通リ抜けて、空調の効いた中へ入り、受付デスクに倒れこんだ。「レックス・坂井です。遅れましたが、面接に来ました」
受付嬢の代わりに警備員がデスクに座っていて、冷静な表情を向けた。キーを二、三回叩くと、ミニプリンターからレックスの情報が入ったカードがブーンと音を立てて出てきて、そのIDタグが彼女に渡された。
「ホールをまっすぐ行って、左に曲がり、C12番会議室で待っていてください」
レックスは空いているドアの中をチラチラ見ながら、通路をすっ飛んで行った。誰もいない大きなオフィスが二部屋、会議室が二部屋あった。角を左に曲がった。
「ちょっと!」
何か温かい——いや、何か熱いものが前ではねた。レックスはかがんだが、遅すぎた——下着の中までポタポタ垂れている。
コーヒーだった。においからすると、とても濃いコーヒー。白いブラウス全体にかかり、細身のスカートにも縦方向の細い線が入っている。
厚化粧の女がにらんでいた。「前見て歩きなさいよ、自業自得だわ」
ムカつく! 「もう少しぜい肉が少なければ、ぶつからなかったんですけどね」
声が出ないあえぎ声をあげるように、その女性は鮮やかな赤紫色の唇を開け、甲高いうめき声をあげながら、プリプリと去っていった。レックスは、その女性がオフィスの中へスタスタと歩いて行き、ドアをバタンと閉めるのを見ながら、洋服に飛びはねたコーヒーにスチームミルクをかけられたように熱くなっていた。
トイレのドアはまだ過ぎていないので、スタッフラウンジが見えるまで歩いた——あのコーヒーは多分そこから来たものだろう。ペーパータオルを数枚つかみ、C12番会議室へと急いだ。
待っている間に、洋服のシミを軽く叩いた。一〇分。二○分。
どうしたのだろう?
受付デスクまで戻った。別の警備員がカウンターの後ろに座っている。
「二○分前に着きまして、別の警備員さんにC12番会議室に行くよう言われたんですが、どなたもいらっしゃいません」
「お名前は?」
レックスは自分の名札を指さした。
警備員はそれをコンピュータに入力している。「ああ、坂井さん、D22番会議室の間違いです。みなさんあなたをお待ちですよ」
レックスはヒステリックに叫びたいのをぐっと耐えた。「どこですか?」
「階段を上がって右に進み、左側二番目のドアです」
この忌々しい細身のスカートでは、階段を一段飛ばしに登ることはできない。熱くなり、息を切らして会議室に入った。三組の目が彼女を見つめていた。
少し白髪が入った年配の紳士が受話器を置いた。「警備員に別の会議室に行けと言われたそうだね」声の調子から、レックスのことも警備員のことも信じていないように思われた。
「申し訳ありません」(息切れ)「最初の(——息切れ)——警備員さんが(息切れ、ゼーゼー)」
「気にしなくていいよ」長細い顔の中年男性が、席を指してレックスを促し、その白髪の男性と、若いそわそわしている男性を紹介した。「君の履歴書のコピーを取ってないんだけど、持ってきてますか?」
「はい、もちろんです ——」レックスは革のフォリオを開き、つかんだ——
一枚だけ。他のコピーはどこへ行ったのか?
うちのプリンターだ。急いで家を出たので、忘れてしまったのだった。「あの……一枚しか持ってませんでした」
そわそわした男はあきれた表情をした。
なめらかなプラスチックの肘掛けに手を置いて、レックスは椅子に腰掛けた——
(うっ、何これ)
肘掛け全体が、糊とバターにはさまれた十字架のように何かベタベタ、ぬるぬるしていて、それが今、レックスの手のひらを覆っている。
これは短すぎるか、長すぎる面接になりそうだ。
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