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ひとり寿司第10章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


10



火曜日の朝——ガラスのドアを開けた途端、レックスは心臓が胸から胃のあたりまでドサッと落ちる気がした。目の前にある会議室は、立っている同僚でぎゅうぎゅう詰めになっている。

時計を見ると朝九時十五分。昨日は、夜十一時近くまで残って働いた——エベレットは、七時に退社する前に、彼女の様子を見に来た——だから、全員参加の会議があることについてメールも電話もなかったことは、どう考えても明らかだ。

こっそり部屋の隅に入ろうとしたが、反対側に座っているエベレットが陰険な目つきで彼女を見ていた。開いたドアのそばに立つと、隣にいるジェリーが大げさにふらつき、女の腕にぶつかった。レックスは一歩横にずれた。

アドミの不機嫌な声は、うなずくみんなの頭上を通り越していった。「……ということで、余分な仕事が全て私に回ってきていますので、今後はこのフォームの写しを提出してもらいます——」彼女は一枚の白い用紙を振った。「——三枚綴りです。締め切りは一週間前まで、ギリギリに提出されても受け付けません」

「お客様の分でもダメなんですか?」アンナが懐疑的な声で発言した。

アドミのゴルゴンの頬が、くすんだオレンジ色になった。「お客様の場合は——」

「全てお客様のためなんですけど。ドライクリーニングを取りに行ってくれ、って頼んでるわけじゃないわ」

レックスは、せせら笑いを抑えようとして、思わず鼻水を飛ばしそうになった。アドミはエベレットに一目惚れしていたので、まさに彼と同じことをする。

ゴルゴンは主導権を取り戻そうと、ベラベラしゃべった。

レックスはうわの空だった。今日はすることが沢山ある。この無意味な会議に座って——いや、彼女の場合は立って——いるということは、今日もまた残業になることを意味していた。

会議はやっと終わり、レックスは自分のデスクへと急いだ。

案の定、メールは届いていた。送信時間は今朝の八時半。九時の「大事な会議」に参加が必須だという。

「レックス、話がある」エベレットが近寄ってきて、カンカンになっている。「僕のオフィスで」

圧迫感がシューッと蒸気をたてて、お腹の中で大きくなってくる。まさか。エベレットはレックスが昨晩、遅くまで働いていたのを知っているのだから、今朝十五分遅刻したことなど問題にしないはずだ。

多分。でも結局、彼はエベレットだ。

彼はオフィスのドアをバタン、と閉めた。「全員参加の会議に出ないとは、どういうことだ」

「今朝八時半までメールしなかったじゃないですか」レックスのお腹の中は泡立ち始めた。

「九時までに会社に来るはずじゃないのか」

「昨日十一時まで働いたんですよ」穏やかな声を保とうと、低い声で話した。(『私は、どんな境遇にあっても満足することを学びました』……)

「君は正直に話してるんだろうか。それを証明できるのか?」

その質問に答える前に、レックスは鼻の穴を膨らませてゆっくり息を吸った。「七時にお帰りになる前に、わたしの様子を見に来ましたよね?」

「どうせ、僕が出たすぐ後に帰ったんだろう」

「十一時にメールを送りましたよ。会社を出る直前です」

エベレットの雷のような眉にシワがより、コンピュータを見ようとデスクの方にまわった。顔が赤くなっていった。「ああ……コンピュータのタイムスタンプを変えた可能性もあるしな」

「何ですって?」(『私は、どんな境遇にあっても満足することを学びました』……満足……満足……)

エベレットはレックスの顔をまっすぐ見た。二人の間にデスクがあった方が、彼は自信を持てるようだ。「とにかく、いくら残業したからといって、遅刻していい理由はない。全員参加の会議に君が遅れて、こそこそ入って来るのを見たときは、実に恥ずかしかった」

レックスは、ギャスケットが壊れそうになっている、使いすぎたレース用エンジンになった気がした。「それほど大事な会議じゃなかったですよね」

「会議は全て大事だ。今日から君を試用期間中にするからな」

視界の隅が濁ってきたが、気を失いそうだったからではない。その無分別で優越感にあふれた笑顔を殴り飛ばしたかった。「私を試用期間中にするなんて、できないわ」

「それはどうしてかな?」エベレットのゆるんだ魚のような唇から出る皮肉は、愚かで分別がないように聞こえる。

「辞めるからよ」

何てことだ、本当に言ってしまったのか?

エベレットの目と口は、野球のボール三つ分ぐらいの大きさになった。

レックスは脳みそが沸騰してきた。それを感じることができた。いい気分。「辞めるわ。スターバックスで働いたって、ここより大事にされる。それに、時給にすれば結局同じことよ」

レックスは振り返り、オフィスのドアを押し開けた。敷居で立ち止まり、エベレットの方を向いた。「エベレットさん、あなた、完璧な能無しね!」わあ、気持ちがいい。

自分のデスクまで足を踏み鳴らして歩き、ランチが入ったビニール袋をつかんだ。そして、個人的な持ち物だけを集め——お気に入りのペンだけは、盗んだ——バッグを肩にかけて、ドアまで堂々と歩いていった。

外に出ると太陽の光が顔に当たり、デスクの周囲を片付けている時には無視していた現実が照らし出された。

一体、何をしてしまったのだろうか?

(中に戻って取り繕うのよ。『自分の敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい』

(嫌よ、絶対に。エベレットと話すなんて、二度とごめんだわ)

(忍耐よ、覚えてる? アドミのゴルゴンのところへ行って話すのよ。人事関係のことは彼女の仕事だから)

(わたしの話を聞いてくれるはずないわ)

確かにそうだ。もちろん、シリコンバレーでエンジニアとして転職するのは難しい——いや、不可能に近いかもしれない。でも、無能なエベレットの恐ろしい顔を見てきたレックスにとって、もうこれ以上は無理。受付の仕事であっても——SPZじゃなくても——今よりマシだ。

車の方まで歩いた。退職願は、うちからファクスか郵便かメールで送ればいい。きれいで議論の余地がない一撃。レックスは自由だ。拘束もされない。高く飛べる。

そして、財務状況は不健全。

まあ破産したわけじゃない。実家に住んできたから、何年か生き延びるだけの蓄えはあるが、融資担当者からは見放されるだろう。さようなら、コンドミニアム。

携帯電話が鳴った。「ハロー?」

「アレクシス・坂井さんですか?」

「はい、そうです」背筋が伸びた。

「こちら、SPZ人事部のウェンディ・トランです。履歴書を拝見しまして、面接に来ていただきたいと思います。明日は空いてらっしゃいますか?」

***

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