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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
ジョージは指を鳴らした。「分かった、君って、僕の元カノに似てるんだ」
デートの最中に元カノの話をするのは、自分の車を鍵でキーッと傷つけてくれと頼み込むようなものだということを、知らないのだろうか?
「そうだそうだ、君って本当に彼女にそっくり……といっても彼女の方が可愛かったかな。シワも少ないし」
シワ? シワなんてあっただろうか? レックスはまだ三○なのに!
「それにあの子の方が、体が曲線的だったな」ジョージは、砂時計のように、あり得ないほどくびれた体型を空中に描いた——「ケツもでかかったし」
部屋の中が暗くなった。血のように赤いモヤが顔にかかり、視界がぼやけた。「それ、ちょっと個人的すぎませんか」
ジョージは手を振った。「ああ、僕はあまり気にしてないから」
「私が気にしてるんです」(どアホ)食いしばった歯の間から出てくる言葉はほとんどなかった。
レックスは長い間、黙っていた。不思議な感情のない感情に襲われた。どんな反応をするべきだろうかと思いながら、瞬きした。
(あーあ、昨日は八キロ走ったし、その前の日は、ビーチバレーのコートで横移動のドリルもやった。それでも鍛え方が足りないのかな?)
(スパーリングスポーツにはあんまり興味はなかったけど、ちょっと考えさせられるわ)
(私の体重と自尊心に対するその繊細な洞察力、おかげで私の人生は完全に変わったわ)
ウエイトレスがジョージを救いに来た。多分、彼の死が迫っているのを予感し、急いで助けに来たのだろう。サラダのお皿を下げ、飾りのついた、ガーリックでローストしたカニを差し出した。
熱く、鼻にツンとくる香り——レックスがお皿の方に身を乗り出すと、その蒸気が顔に当たった。エキゾチックなミックススパイスが、茶色く焦げた温かく濃厚なバターと混ざっている。塩気はほんの少し。カニの殻は、温かく健康的な夕日の色だ。生唾が出てきた。
上にのっている殻を取り、甘い海の味を吸い込んだ。そして、柔らかい肉をフォークで取り、一口食べた。
心が穏やかになったレックスは、ジョージのことを全て赦すことにした。だって、彼のおかげでこの上ない幸せを感じながら、ここに座っているのだから。
ジョージは脂肪細胞のことについてベラベラしゃべっていた。隣のテーブルに座っている女性のミニスカートをチラチラ見て、それにレックスのことを一度、アリシアと呼んだ。ビッグバードと呼ばれたって、もうどうでもいい。レックスはシャングリラ(理想郷)に達していた。
「ハロー、レックス!」
真っ逆さまに地獄へ落とされた。
ミミが彼らのテーブルの隣でポーズを取っている。曲線的なお尻がよく分かる滑らかな黒いドレス。そして元気なCカップの胸が、くりの深い、タイトなネックラインの下に押し込められている。「赤線地区」と叫んでいるような口紅で縁取られた白い歯を光らせた。
「ここで会えるなんて嬉しいわ、レックス」ミミは、かすかに光る膝丈のポニーテールを振り回した。そしてレックスを無視し、ジョージの方へと斜めに進んだ。「こんにちは。いとこのミミです」
彼は、上下に揺れるマウンドを目の前にして、めまいがしたようだった。「ジョージです」
ミミの魅惑的で半分閉じた目が、ジョージに近づいていった。「見覚えがあるわ。どこかで会ったことないですか?」
ちょっと待って。ミミは何をしているのだろうか? 既にキンムンをゲットし、レストランの向こう側では、九○キロのキン肉マンが下心丸出しでジロジロ見ている。ミミは、何十人もの男を手中に収めているのだ。何故、レックスの貧弱な羊を追いかけるのだろうか?確かにジョージはハンサムなゲス野郎だが、それにしても、だ。レックスは、テーブルの反対側で忘れ去られたように座っていた。ソファに座ってつまらないドラマを見ている愚かな女のように。
ジョージは、ミミの底知れない期待に沿うよう、嬉しそうに答えた。「一度会ったら絶対に覚えているよ、必ず」
「本当? あのヌード男女混合アルティメット・フリスビーの試合で絶対、会ったと思うんだけど」
これに答える表情の中に、不快な歓声がくすぶっているように見えた。「ダーリン、この体を見せびらかすのは、プライベートな観衆だけなんだけどな」
レックスは吐き気を必死で我慢した。いくら頭が悪いジョージでも、レックスがある程度の至近距離にいるうちは、少し慎んでもらいたかった。例えばテーブルをはさんで一メートルの距離にいるときぐらいは。
ミミが、ずる賢く横目で見た。(レックス、デート相手の注意を引くことも出来ないの?)
頭がオーブンに突っ込まれたように、レックスの顔は熱くなった。胸は苦しく、肺に穴があいているような気がした。息を吸うと喉が焼けるようで、苦しくなった。洋服の中に縮こまり、もっと小さく、もっとデリケートに、もっと女らしくなろうと、肩を丸くした。
「あっ!」ミミのしなやかな手が、貝殻の形をした耳をさわった。「イヤリングがないわ」床の上を探そうとかがめば、否応なくドレスの中までよく見える。
ジョージは一瞬止まり、肉食の狼のようにミミを見下ろした。そして自分の椅子を後ろにずらし、かがみこんで、模様のついたカーペットの上を探そうと目を凝らした。
ジョージの頭がミミの頭と同じ高さまで降りてきたとき、ミミは彼の方にあごを上げた。ジョージもミミの方に傾いた。あと数センチ動いて、その唇を彼女の唇に押し付けてみろと彼に挑むかのように、ミミはゆっくりと官能的な、ベッドルームでの微笑を向けた。
ジョージは、うつろな笑みを浮かべた。
レックスはけいれんを起こしたように胸が痛くなった。無視されているのと同時に、スポットライトの中に立たされている。熱く見つめ合うカップルからは締め出され、レストランの客は、平凡な女がかわいそうに、目の前でハンサムな同伴者を失うのを目撃して、嘲笑っている。
ミミが物憂げに立ち上がった。二本の指の間に名刺が見える。一体どこから出てきたのだろう? 胸の中から? それをジョージの方に傾けると、彼は視線を合わせたままそれを引っ張った。
ミミは無意識に、指を首の上から下に引っ張るしぐさをした。「お会いできてよかったわ、ジョージさん」
「こちらこそ」
ミミの目がレックスの方に動いた。「二人は、どんなお知り合い?」
「僕とレックス? ああ、彼女のお兄さんが引き合わせたんだ」
ちょっと待って。リチャードはそんなことしていない。ただレックスにコンドミニアムを見せてやって欲しいと、ジョージに頼んだだけだ。なぜジョージはそんなことを言うのだろう? ジョージが口にしていないことを理解するのに、数秒かかった。
リチャードは、レックスをディナーに誘うよう彼に頼んだのだろうか!?
まさか。リチャードはそこまでバカじゃないだろう。それとも、そこまで自虐的ではないとでも言おうか——だって妹が事実を知ったら、確実に追い詰められることが分かっているはずだ。
しかし怒りに溺れながら、ヘドロに満ちた悔しさの海が、引き波のようにゆっくりとレックスを引っ張った。兄にデート相手を紹介してもらわなくちゃならないなんて。
そしてミミは、このことをみんなに言う。
レックスは、これを決して忘れないだろう。ミミのキラキラした眼差しと驚いたような、嘲るような表情を頭の中からシャットアウトしようと目を閉じた。レックスの温かく暗い世界は、ミミの甲高く、玉を転がすような声で切り裂かれるようだった。
「ええっ、本当?」くすくす笑い。「私もリチャードのお見合いサービス、利用しちゃおうかな」
レックスの目がパッと開いた。白熱した怒りの裏側にあるプライドを救い出さなくては。「黙んなさい、小娘」
ミミの笑顔が固まった。トリッシュのバービー人形の頭をもぎ取った時の表情と同じだ。押し上げるブラや、ピチピチの洋服では、ミミの背丈を小学生より高く見せることはできないことを思い、温かい復讐のほとばしりがレックスの心の中に湧いてきた。
レックスは、テーブルの向こう側に頭を傾けた。「いい子になってパパのところへ帰る時間よ」
ミミはジョージの方を向き、顔を寄せた。「今度会える?」
彼は映画スターのように自信満々の表情をしている。「かもね」
ミミはさっそうと歩いていった。
レックスは、無表情な顔と燃えるような目でジョージを見た。彼の笑顔は消えていった。
彼の肩越しに、ウエイトレスが近づいてくるのが見えた。レックスはさっと手を挙げた。「テイクアウト用の入れ物をもらえますか?」レックスは、手をつけていないジョージのカニをチラッと見た。フェロモンを撒き散らすのに忙しかったらしい。「彼の分もお願いします」
ウエイトレスはうなずいて、急いで離れていった。
ジョージは驚いて瞬きした。「カニ、美味しくなかった?」
「お腹が空いてないので」
彼女のぶっきらぼうな口調を理解していないようだ。「それはよかった。君の場合、カロリー摂取は低い方が確実に——」
信じられなかった。「ちょっと黙ってもらえますか」
ジョージは口を開けたまま、話の途中で止まったが、すぐに気を取り直した。「ああ……レックス、君のお兄さんと僕はいい友達なんだ」
陰鬱な疑念のために、また緊張が放たれ、背骨を伝って降りてきた。「それで?」
「お兄さんとは、よく会うんだろ?」
レックスは口を閉じ、目を細めて彼を見た。
「僕の分の食事代、お兄さんから返してもらってくれる? 実は……現金、持ち合わせてないんだ」
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