Skip to main content

ひとり寿司第4章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***




「分かりました。待ちます」レックスは電話を持つ手をゆるめた。「行ったり来たりしないでくれる? 緊張するじゃない」

トリッシュは、オレンジ色と茶色のストライプのソファの上にドスッとすわった。

「じゃあさ、キンムンが乗り気じゃなかったことが、ちょっとでも気にならないの?」

トリッシュの知ったかぶりな様子にレックスはイライラし、心の中でつぶやいた。(そんなに乗り気じゃないわけではなかったと思うけど?)「そのことは後で話そうよ。今、電話中だから」レックスは古いレイジーボーイ・チェアに寄りかかり、傷のついたオーク製のサイドテーブルに肘を載せていた。

「今は誰とも話してないじゃない」

「気が散るの」

「大丈夫、気が散るようなことはしないわ」

「あなたの話を聞くと感情的になるからダメなの。トモヨシさんとは感じよく落ち着いて話さなきゃ」

トリッシュはあきれた表情をしたが、口を閉じた。

「ハロー、レックス?」

レックスは電話に注意を向けた。「こんにちは、トモヨシさん」

「しばらくレストランで会ってないねえ。元気にしてる?」その親切で陽気な声には、トモヨシさんの太い胴体と寛大な性格が表れていた。

「はい、元気です」

「まだバレーボールを?」

「ええ、実は、私がコーチをしている——」

「まだ覚えてるよ。おばあさんに連れられてレストランに来た時のこと。どうしてもバレーボールを車の中に置いてくるのを嫌がって、結局、自分の丼に当たってラーメンが飛び散ったよね」彼は笑った。

「ええ、そうでしたね」トモヨシさんが覚えているのは、それだけなのだろうか? 話をする機会があると、必ずこのことを言う。彼の日本食レストランでやった卒業パーティのことは? お父さんの厄年にはバースデーパーティだって。それ以外にも何度も食べに行ってるし、恐ろしいほど恥ずかしいハプニングがなかったことの方が多い。「あの、トモヨシさん……」

「おばあさんにはよく会うの?」

「いとこのレッドエッグアンドジンジャー・パーティで会ったばかりです」

「ああ、チェスターの姪っ子さんだね? それはいいなあ」

他の来客にとってはよかったのかもしれない。「ええ、食べ物は美味しかったです」食べてたら、そう思ったはず。

彼がクスッと笑った。「次はうちのレストランでやってください、っておばあさんに伝えといてよ」

うーん。日本食レストランで中国の伝統的なパーティ? ちょっと想像できない。「もちろんです、お宅の食べ物は最高ですからね」

「ありがとう。君はいい子だね」

レックスはその「いい子」という言い方に苦笑した。「まだ中学生のバレーボールチームのコーチをしてるんです」

「いいじゃないか。アジア人コミュニティへのいい恩返しだ」

レックスは、ほとんどの子がサンノゼのダウンタウン出身だということを言わなかった。アジア系の子もいるのは確かだ。「楽しくてやってるんです。母がコーチをしていた人たちの娘さんたちですから」

「ああ、君のお母さんが懐かしいよ」

レックスは発作的に唾を飲み込んだ。「そうですね、ところで——」

「君のお父さんは最近どうしてる?」

「元気です。よくボウリングに行きますよ」

「時々、見かけるんだ。最近ちょっと歩くのが遅くなったみたいだけど、どうなの?」

「ええっと……」実際そのようには見えなかったが、目上の人と言い合う気はない。特に将来のスポンサーとは。「そうなんです」

「君も少しバレーボールを減らして、お父さんの世話をした方がいいんじゃないか? みんな年を取るんだから」

レックスは、年老いた親の世話という、文化的かつ道徳的義務があることを十分承知している。その親が世話になりたくない、と言ったとしても。だが、なぜ周りの人はそうやって自分に釘を刺し、人生の何もかもをあきらめるべきだと言うのだろうか? 家族の世話をするために、夢をあきらめる友人や親類を見てきたが、彼らは本当に悲しみ、もどかしく思い、また体力をすり減らしていた。

レックスはそのコメントを無視することにした。「バレーボールのことなんですけど、私の女子チームが夏にプレイオフで遠征に行くんですね。旅費をサポートしてくださるお気持ちがあるか、お伺いしたかったんです」

「ああ……」

「母を追悼してとか、どうでしょう?」そうそう、彼の感傷的な部分を攻めよう。

「何か役に立てると思うよ。あとで連絡させてもらってもいいかな?」

「もちろんです! ありがとうございます、トモヨシさん」心の目で、祖母のドラゴンのような爪が乳白色のもやの中に消えていくのを見た……

「小切手はお父さん宛に書いた方がいい?」

「あの……いいえ、どうしてですか?」

「面倒なお金のことで君を煩わせたくないから」

日系アメリカ人のコミュニティで育つと、こういった問題がある。みんなが祖母のこと、レックスの家族のことを知っているのだ。シニアの人達は、レックスのことをまだ八歳ぐらいだと思っているようだ。「チームの経理は私の仕事です、トモヨシさん。バレーボールクラブ宛にチェックを書いてもらえますか」

「本当にそれでいいの?」

「大丈夫です」レックスがチームの経理を担当し始めてから、もう一年になる。

「分かった。じゃあ、二、三日したら連絡するから」

「本当にありがとうございます、トモヨシさん」レックスは受話器を受け台に戻した。「やったわ、おばあちゃん!」

トリッシュはあくびをした。「はいはい、それでキンムンのことはどうなの?」

レックスはトリッシュの方に手を伸ばした。「リモコンを取ってくれる?」

トリッシュはリモコンをつかみ、聖なる杯のように胸元に抱きしめた。「いやよ、あなたと会話がしたいの」

「テレビを見ながら話せるわ」レックスは手を伸ばし、トリッシュの固く閉じた指を手探りで開こうとした。

トリッシュが背中を向けた。「私の質問に答えるのが先」

「どんな質問だっけ?」

トリッシュは、(言いなさいよ、あなた、そこまでバカじゃないでしょ)という目でレックスを見て言った。「キンムン?」

「ああ」レックスは腕を組んだ。「キンムンがどうしたの?」

「いじめてデートに行くことにしたようね。あなた、他人の感情ってものを考えたことないでしょ」

「考えてるわ。他人にとって何がベストか、分かってるもん」

「じゃあ、キンムンがあなたとしぶしぶデートに行くのが、彼にとってベストだってこと? あなたにとってじゃないの?」

「お互いにとってよ。さあ、早く、リモコン」

トリッシュはレックスの手が届かないところにリモコンを動かし、その上にすわった。「ちっとも心配してないってこと?」

自分のことを弟——じゃなくて妹のように考えているというのはあまり嬉しいコメントではなかったが、そのことをトリッシュに打ち明けるつもりはない。「ただ、私のことをそういう目で見たことがないだけなの。それに、考えがあるの」

「他にも?」

レックスは冗談半分でトリッシュの頭の上をピシャッと叩くしぐさをした。「これはいい考えなの、一緒に買い物に行ってくれる?」

レックスのお気に入りのスポーツになった時に限って、トリッシュはまっすぐに座った。テレビがプツンと消えた。

「リモコンちょうだいよ。壊れるじゃない」

「自分からショッピングに行きたいなんて、どういうこと?」

「キンムンにあっ、と言わせたいの」

「イメチェンって意味?」トリッシュは、開いた口が塞がらない。

「よだれが垂れてるわ」

「垂れてない」トリッシュは口の端を拭いた。「イメチェンなんて、相当やけくそになってるわね」

「やけくそになんてなってない。現実的なだけよ。カジュアルな服しか見せてないから、セクシーで魅力的な私を見せなきゃ」(妹のように、じゃなく)

「本当にうまく行くの?」トリッシュの顔から懐疑心がにじみ出ていた。

「何よ、私ってそんなに救いようがない? 教えてくれてどうもね」

「彼があなたの性格に惹かれてないんだったら、見かけを変えてもどうにもならないんじゃないの?」

「男は外側を見るものでしょ。つまり、うちでスポーツセンター(スポーツ専門テレビ局)を見てる時、お兄ちゃんは何を見てると思う? AXLのコマーシャルに出てくる、半裸でおっぱいを揺らしてる女の子達よ」

トリッシュの口が大きく丸い形になった。「あなたが半裸になるわけじゃないでしょ——?」

「ええっ、違うわよ。私は揺らすものがないからね」レックスはトリッシュのお尻をひっぱたく素ぶりをした。アスリートではあるが、悲しいことにフラットな体でビキニを着たら、キンムンは悲鳴を上げ、精神病院行きになるかもしれない。

「それじゃあ……」トリッシュは、職場で新しい生物学実験に取り組むときに見せる「改善しよう」と言う目つきでレックスの体をジロジロ見た。そう、レックスはトリッシュをその気にさせたのだ。

「できる?」

「私がやらなきゃ無理ね」

***

電子書籍
アメリカKindle
日本Kindle
Apple Books
Kobo/Rakuten
Google Play
印刷本
アメリカAmazon
日本Amazon

Comments

Popular Posts

Michael’s Scarf knitting pattern

Michael’s Gray and Brown Scarf I had just written a scene in Lady Wynwood’s Spies, volume 5: Prisoner where my character Michael gives the heroine a very significant scarf. When looking for a stitch pattern, I found the one used in “#31 Comfort either for a Lady or Gentleman” in The Lady's Assistant , volume 2 , published in 1842 by Mrs. Jane Gaugain, pages 125-126 (click on the link to view and/or download the free PDF of the digitally scanned book). When I did test swatches, it turned out to be a pretty eyelet pattern that looks like branches or vines winding upward. I tried the pattern as a parallelogram scarf and discovered that the pattern has a changeable orientation, looking vertical or diagonal depending on how you looked at it. So I decided to use this pattern, knitted as a parallelogram, as Michael’s scarf. I decided to use a smaller needle and add a slip stitch in the pattern to make the eyelets a bit more close and less lacy. When paired with a brown an

Grace Livingston Hill romances free to read online

I wanted to update my old post on Grace Livingston Hill romances because now there are tons more options for you to be able to read her books for free online! I’m a huge Grace Livingston Hill fan. Granted, not all her books resonate with me, but there are a few that I absolutely love, like The Enchanted Barn and Crimson Roses . And the best part is that she wrote over 100 books and I haven’t yet read them all! When I have time, I like to dive into a new GLH novel. I like the fact that most of them are romances, and I especially appreciate that they all have strong Christian themes. Occasionally the Christian content is a little heavy-handed for my taste, but it’s so interesting to see what the Christian faith was like in the early part of the 20th century. These books are often Cinderella-type stories or A Little Princess (Frances Hodgson Burnett) type stories, which I love. And the best part is that they’re all set in the early 1900s, so the time period is absolutely fasci

Lady Wynwood’s Spies book 1 in Amazon Prime Free Reads

Lady Wynwood’s Spies, volume 1: Archer in Amazon Prime Free Reads My book was chosen to be included in Amazon Prime Free Reads. If you have Amazon Prime, you’ll be able to borrow my book for free. Now’s the chance to read Lady Wynwood’s Spies, volume 1: Archer if you haven’t yet! Read Lady Wynwood’s Spies, volume 1: Archer free on Amazon

The Gentleman Thief in Free Historical Fiction Bookfunnel promo

My book The Gentlemen Thief (writing as Camille Elliot) is in this Free Historical Fiction promo. Every book in the promo is FREE when you sign up for the author’s email newsletter. Check out the promo and all the great FREE historical fiction ebooks! You might find a new favorite author! Free Historical Fiction promo

The Wedding Kimono in the Clean Romance Books promo

My book The Wedding Kimono (writing as Camy Tang) is in this Clean Romance books Bookfunnel promo. Every book in the promo is FREE when you sign up for the author’s email newsletter. Check out the promo and all the great FREE clean romance ebooks! You might find a new favorite author! Clean Romance Books Bookfunnel promo

Hosea 14:2

Lord Jesus, Thank You that we can freely come directly to You and pray to You. Thank You that You died for our sins on the cross and we can be forgiven. “Forgive all our sins and receive us graciously, that we may offer the fruit of our lips.” We praise and thank You, Lord, for how wonderful You are. We lift our hearts to You in praise today. Amen 主イエスよ、私たちが自由にあなたに直接近づき、あなたに祈ることができることを感謝します。あなたが十字架で私たちの罪のために死んでくださり、私たちが赦されることを感謝します。「私たちのすべての罪を赦し、私たちを慈しみ深く受け入れてください。」主よ、あなたがどんなに素晴らしい方であるかを賛美し、感謝します。私たちは今日、賛美のうちにあなたに心を捧げます。 アーメン

No Cold Bums toilet seat cover

Captain's Log, Stardate 08.22.2008 I actually wrote out my pattern! I was getting a lot of hits on my infamous toilet seat cover , and I wanted to make a new one with “improvements,” so I paid attention and wrote things down as I made the new one. This was originally based off the Potty Mouth toilet cover , but I altered it to fit over the seat instead of the lid. Yarn: any worsted weight yarn, about 120 yards (this is a really tight number, I used exactly 118 yards. My suggestion is to make sure you have about 130 yards.) I suggest using acrylic yarn because you’re going to be washing this often. Needle: I used US 8, but you can use whatever needle size is recommended by the yarn you’re using. Gauge: Not that important. Mine was 4 sts/1 inch in garter stitch. 6 buttons (I used some leftover shell buttons I had in my stash) tapestry needle Crochet hook (optional) Cover: Using a provisional cast on, cast on 12 stitches. Work in garter st until liner measures

Tabi socks, part deux

Captain's Log, Stardate 07.25.2008 (If you're on Ravelry, friend me! I'm camytang.) I made tabi socks again! (At the bottom of the pattern is the calculation for the toe split if you're not using the same weight yarn that I did for this pattern (fingering). I also give an example from when I used worsted weight yarn with this pattern.) I used Opal yarn, Petticoat colorway. It’s a finer yarn than my last pair of tabi socks, so I altered the pattern a bit. Okay, so here’s my first foray into giving a knitting pattern. Camy’s top-down Tabi Socks I’m assuming you already know the basics of knitting socks. If you’re a beginner, here are some great tutorials: Socks 101 How to Knit Socks The Sock Knitter’s Companion A video of turning the heel Sock Knitting Tips Yarn: I have used both fingering weight and worsted weight yarn with this pattern. You just change the number of cast on stitches according to your gauge and the circumference of your ankle. Th

Marketing Information Form, part two

Captain’s Log, Stardate 05.26.2006 Blog book giveaway: My Monday book giveaway is A GIRL’S BEST FRIEND by Kristin Billerbeck . My Thursday book giveaway is LIFE INTERRUPTED by Tricia Goyer . You can still enter both giveaways. Just post a comment on each of those blog posts. On Monday, I'll draw the winner for A GIRL’S BEST FRIEND and post the title for another book I'm giving away. Stay tuned. Continued from Marketing Information Form, part one : More stuff they want to know about my book: Other covers: What styles, fonts, colors? This is one area I didn’t really think about, but I listed the few covers that I thought conveyed the sort of atmosphere I wanted for my book: WHAT A GIRL WANTS by Kristin Billerbeck . The cartoon design is fresh, cute, clean. SASSY CINDERELLA AND THE VALIANT VIGILANTE by Sharon Dunn . This book, more than the other Ruby Taylor books, conveyed Ruby’s character—her vibrant red hair, bohemian dress, sassy post-modern attitude. THE TROUBLE WITH LACY B

September and October Christian Fiction new releases

The Lone Rice Ball releases next month in a Christian Contemporary Romance multi-author box set, Once Upon a Starry Night: A Very Merry Christmas Romance Collection . It's included in this promo with other Christian Fiction new releases for September and October. You can preorder it for only $2.99, and the price will go up on the release date in October. If you prefer to read it on Kindle Unlimited, sign up for my newsletter so you can hear when it’s available to read in KU. Check out the Sept/Oct Christian Fiction new releases