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「ひとり寿司」をブログに連載します!
ひとり寿司
寿司シリーズの第一作
キャミー・タング
西島美幸 訳
スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。
ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。
そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。
エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。
レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——
過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。
「いいゲームだったわ、みんな」レックスは、ぼろ勝ちしたばかりのチームの最後の選手の手をたたき、コートの外に出た。
ジムバッグを取りに来る、別のコートの選手をよけながら、やっと自分のバッグの隣のスペースを確保した。首を伸ばしてキンムンを探しながら、靴紐を引っ張った。
彼のチームは、遠い方のコートでまだプレイ中だった。
レフリーがさっと笛を外した。「ラストポイント!」耳をつんざくような笛の音でサーブの合図を出した。
後衛センターのキンムンは、腕の中に落ちたように見える難しいフローターサーブを取った。セッターが弧を描くようにボールをサイドアタッカーに送り、それをパンチ——
相手チームの完璧なタイミング、完璧なブロック。(バン!)打つより早く戻ってきたボールはサイドラインに落ちた。線審の合図は「イン」。ポイントが入り、ゲーム終了。
(ばか!)レックスは競技を見ながら靴を脱ぐべきだった。キンムンがチームの輪に入って掛け声を上げ、相手チームとの握手の列に進んでいる間、レックスは二重に結んだ靴紐をあわてて解こうとしていた。キンムンは自分のジムバッグの方へ一直線に進み、床に座って靴を脱いだ。
レックスはやっと靴紐を解いて、靴を引っ張った。足をいつものスニーカーに押し込み、さっと立ち上がった。
どこに行ったのだろう? さっきまでここにいたのに。
「レックス、いいゲームだったね」
肩にバッグを下げて通り過ぎるチームメートをチラッと見た。「ええ、あなたもね」キンムンはどこにいるのか?
ああ、あそこだ。レックスのチームのキャプテン、ジルと話している。レックスはジムバッグを手に取った。
さて、どうするか? みんなの前で彼を誘う? 考えたこともなかった。みんなが車の方へ出て行くまで、待たなくてはならなかった。そうすれば、キンムンと二人になれる。
それまで、彼の靴についたガムのようにくっついていよう。
「ああ、キンムン、ジル」
「レックス、数ヶ月先だけど、ベガスでのトーナメントに一緒に出ないか、ってキンムンを誘っているの。あなたもどう? 彼にうまくトスを上げられるのはあなたぐらいだから」
レックスは肩をすくめた。「もちろん、いいわよ。メールして」
「仕事の予定を確認させてくれよ」キンムンの異様に低い声が騒々しいジムの中で響いた。レックスは彼の声がよく聞こえるように、もっと近づいた。
「いいわ。ありがとう、二人とも」ジルは離れていった。
「出られるといいんだけどな」キンムンは、座ってバレーボールシューズを脱いだ。「そうしたらジルが僕にトスできるからさ」と言って爆笑した。
「はは、ネット近くの低いトスが好きなんだ、って言っておくわ。ブロッカーにネットを押しつけられるぐらいにね」
「意地悪だなあ」キンムンは立ち上がって、バッグを取り上げた。
やった。もしかしたら彼を急がせて、ジムを早く出ることができるかも。「何か食べに行く?」レックスはドアの方までゆっくり歩き始めた。
「そうだね……あれ、僕のボールは?」キンムンは折り畳んだ観客席の方へ歩いて行き、床に転がっているボールを調べている。
レックスは反対側へ行って一緒に探し始めた。少しでも早く彼を車まで行かせることだったら何でもやる。「タチカラ」という紋の上に青いマーカーで彼が書いた、かすれた絵が目に留まった。「あったわよ」
「サンキュー」キンムンはそれをバッグに入れ、また床に座ってストレッチを始めた。
(何でストレッチ!?)
レックスは怒って騒ぐか、一度ぐらいは辛抱するか。彼の隣にすわった。
二人は他の選手から少し離れている。低い声で話せば聞こえない距離だ。「ねえ、キンムン ——」
「ねえ、ねえ」ロビンが歩いてきた。「息子の募金活動なんだけど、雑誌の購読しない?」
また中断された。この調子では、彼を誘うなんて無理だ。「もちろん、いいわよ」レックスは手探りでバッグの中の財布を探した。さっさとロビンにお金を払えば、さっさと行ってくれるだろう。
「キンムンはどう?」ロビンが猫なで声を出した。
「ええと……もちろん」キンムンはバッグの中の財布を探した。
ロビンは雑誌がリストされている、使い古されたフリップカードをレックスに渡した。レックスはこれをほとんど見ずに言った。「ゴルフ」
キンムンは、うっとりするほど困惑した表情を見せた。「お前、ゴルフ嫌いだろ?」
「スポーツの流行についていきたいの。ESPNとスポーツ・イラストレイティッドは、もう購読してるのよ」ロビンに代金を渡した。
キンムンは雑誌のリストに目を通している。苦しくなるほどゆっくりと。その几帳面な性格には、時々本当にイライラする。今みたいに。(今世紀中のうちには……)
「アントレプレナーにしようかな」
「投資なんてしないじゃない」
「したいんだ」ロビンにカードとお金を渡した。
「ありがとう、二人とも」やっとロビンが離れていった。
「それで、キンムン」
「キンムンおじちゃん!」
その甲高い声が聞こえたと思ったら、三歳児が二人の間に突進してきた。激しく揺れる手が、レックスの両目を横切るように直撃した。「うっ!」
灼熱感が目を襲った。まぶたを閉じたが、痛みは目の端まで広がった。このガキ——いや、この子は手に何を持っていたのだろうか?
「おい、手がベタベタだよ」キンムンの陽気な声で、レックスの黒ずんだ苦痛が和らいだ。
「はーい」幼児は、セサミストリートなみの冗談を飛ばしたかのようにクスクス笑った。
やっと涙があふれ、こぼれ出した。焼けるような痛みが和らいできた。レックスは目をこすった。
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