Thursday, July 22, 2021

ひとり寿司第1章パート2




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***


彼女らのテーブルは、使われていない椅子を積んである隅に押し込まれていた——このレストランにもっと椅子が入るとでも言うのか。「レックス、こっち、こっち!」トリッシュが挙げた手を激しく振ったので、レックスはその手が飛んでくるような気がした。ビーナスはトリッシュの隣で、いつものように華やかにくつろぎ、だるそうにしている一方、ジェニファーは反対側に静かに腰かけ、まっすぐな長髪をいじっていた。彼女らのどちらの側にも……

「ねえ、私の席はどこ?」

ビーナスの大きいアーモンド色の目は心から詫びているように見えた。「ごめんね。ジェンの隣の席を確保してたんだけど……」太った叔母の椅子の背の方を指さした。「その椅子をどかさなくちゃいけなくて、そうこうしているうちに、なくなっちゃったの」

「裏切り者。テーブルの下に一人押し込んだら?」

ビーナスがずる賢くニヤッとした。「あなたなら、ちょうどそこにぴったり入れるわよ、レックス」

トリッシュはビーナスの腕を叩いた。「もうちょっと親切にできない?」

他のいとこ達が怪訝そうにこちらを見ているが、それはよくあることだ。この四人は学生時代に同じコンドミニアムに住んでいた時から仲良くなったのだが、そろってクリスチャンになって以来、さらに親しくなった。彼女らの弱み、欠点、信仰を理解する者は、他に誰もいなかった。

レックスはすわる場所を探さなくてはならない。少なくともこの拷問のようなパーティに来たんだから、高価で高カロリー、高コレステロールの食べ物をがっつり食べなくては。

黒髪の頭、白髪の頭、染めた頭、おにぎりを逆さにしたようなヘアスタイルの子供の頭、ハイライトを入れたり、変わった色に染めたティーンエイジャーの頭の海を、レックスはざっと見渡した。

あそこだ。一つ席が空いているテーブルがある。いとこのボビーとその妻、義母、彼らのひな鳥たちがいる。六人——数えてみた。五才に満たない小さい子供が六人だ。

レックスは子供が苦手というわけではなく、逆に、好きだった。女子バレーボールチームのコーチも楽しかった。だけど、ここにいるのはボビーの子供。九一一番の交換手はこの子達の名前を覚えていた。地元の警察官は電話が鳴ると、誰がその家に出動するかを決めるために、くじを引くのだった。

しかし、ボビーの家族と一緒にすわるのは、それほど悪くないかもしれない。子供は大人より食べる量が少ないから、レックスの食べる分が増えるということだ。

「こんにちは、ボビー。ここ空いてる?」

「空いてるよ、どうぞ」丸顔のボビーは、空いている席を指してうなずいた。

レックスは、心配そうにしている彼の妻に微笑んだ。断続的に高い音を発する乳児と格闘している。「その子は……」(まずい、墓穴を掘ってしまった。何でもいいから名前、名前——)「ええと……カイル?」

赤ん坊がタコのように体をくねらせながら床にうつ伏せにならないよう悪戦苦闘しながら、追い詰められた母親の笑顔は苦笑いと混じり合っていた。「そう、カイリー。大きくなったでしょう?」息子の一人がフォークを持ち上げた。

「ダメよ、いい子だから食べ物を置いてね——!」

揚げ物がミサイルのようにテーブルのこちら側へ飛んだ。野菜とベタベタするソースが弧を描いている。時速百二○キロで飛んでくるバレーボールから顔を守ったことはあるが、飛んでくる複数の食べ物から素早く身をかわしたことはない。レモン味の刻んだレタスは手で避けたが、ソースに浸かった鶏の唐揚げミサイルは、胸に命中した。

ゲッ! でも洗濯できるから不幸中の幸いだ——いや違う、これは普通の綿のドレスじゃない。新品のシルクのドレスだった。値札を見たときは息が止まりそうだったが、ウエストは実際くびれているように見える。「ドライクリーニングのみ」のタグがついたドレスだった。

「大変! レックス、ごめんなさい。悪い子ね。あなたがやったことを見なさい」ボビーの妻は、赤ん坊をつかんだまま、テーブルの向こう側から体を傾けてナプキンを差し出しているが、赤ん坊の足は大皿の焼きそばを引きずっていた。

レックスの隣に座っていた男の子が笑いながら叫んだ。噛んでいる途中のニンニクソース入りチンゲン菜で口の中をいっぱいにしていなければよかったのだが——

胃から逆流したチンゲン菜がレックスの胸に降ってきて、お皿のサニーレモンチキンがべチャッとなっている。子供は彼女のドレスの上にできた模様を指さして、フェルメールを世に送り出したかのような歓声をあげた。

「こら! 失礼だろ」ボビーは息子達をにらんだが、塩コショウ味のエビを口に放り込むのはやめなかった。

レックスは汚れをゴシゴシこすった。ポリエステルのナプキンでは、どうしてもソースのベタベタがドレスから落ちず、粘液のように青いシルクにくっついた。ムカムカしてきて、胃がグルグル鳴った。アスリートである彼女の体の他の部分は強いのに、どうして胃は弱いのだろうか?

汚れを落とさなくては。レックスがやっとの思いで椅子から立ち上がると、後ろに座っていた年配の男性にぶつかった。「ごめんなさい」激しい動きのため吐き気がひどくなったが、すぐにおさまった気がした。(バカじゃないの。しっかりしないと)しかし、彼女の過敏な胃は、頭との連絡が取れなくなっていた。

(息を吸って。吐いて。違う、鼻からじゃなくて。あの男の子の鼻から垂れている鼻水は見ちゃだめ。よだれを垂らしている赤ちゃんからも目をそらして)

外の空気を吸わなくては。今、帰ったら失礼だと言われても構わない。

「いたいた、レックス」

祖母はレストランのはしっこまで来て一体何をしているのか? ここは安全地帯のはずだ。「もっと重要な」家族のメンバーが座っている向こう側から、わざわざこっちまで来たのは何故だろう。

「何てこと! 何が起こったの?」

「ボビーの子供達の隣に座ったのよ」

粉おしろいをはたいた祖母の顔にシワがよった。「さあ、一緒にトイレに行きましょう」キラキラした目が、またレックスの汚れたドレスの前へとそれていき、祖母は息を呑んだ。

大変だ、他に何があるのだろう? 「何なの?」

「いい服は絶対に着ないものね。いつも黒くて醜いのばかり」

「前にも話したでしょ——」

「あなた、胸がないのね。気がつかなかったわ。どうりで男が寄りつかないはず」

開いた口が塞がらない。レックスは、無理やりコホッと咳を出すまで、胸の中で息が詰まった。「おばあちゃん!」

くるっと回る複数の頭が、目の片隅に入った。祖母の声は、サッカーのワールドカップの解説者よりも通りがいい。

祖母は前かがみになって、レックスの胸元をのぞいた。レックスは飛びのいたが、後ろに椅子があるのであまり遠くまで動けない。

祖母は恐ろしく興奮した顔つきで姿勢を正した。「どうするべきか分かったわ」

(やれやれ、今こそウェイターが、お盆でおばあちゃんの頭を叩き割るときだ)

祖母は上機嫌で手を叩いた。「そうね、それがいい。あなたの豊胸手術の費用は私が持ちます」

***

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