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ひとり寿司第6章パート1




「ひとり寿司」をブログに連載します!


ひとり寿司



寿司シリーズの第一作

キャミー・タング

西島美幸 訳

スポーツ狂のレックス・坂井 —— いとこのマリコが数ヶ月後に結婚することにより、「いとこの中で一番年上の独身女性」という内輪の肩書を「勝ち取る」ことについては、あまり気にしていない。コントロールフリークの祖母を無視するのは容易だ —— しかし、祖母は最終通告を出した —— マリコの結婚式までにデート相手を見つけなければ、無慈悲な祖母は、レックスがコーチをしている女子バレーボールチームへの資金供給を切ると言う。

ダグアウトにいる選手全員とデートに出かけるほど絶望的なわけではない。レックスは、バイブルスタディで読んだ「エペソの手紙」をもとに「最高の男性」の条件の厳しいリストを作った。バレーボールではいつも勝つ —— ゲームを有利に進めれば、必ず成功するはずだ。

そのとき兄は、クリスチャンではなく、アスリートでもなく、一見何の魅力もないエイデンを彼女に引き合わせる。

エイデンは、クリスチャンではないという理由で離れていったトリッシュという女の子から受けた痛手から立ち直ろうとしている。そして、レックスが(1)彼に全く興味がないこと、(2)クリスチャンであること、(3)トリッシュのいとこであることを知る。あの狂った家族とまた付き合うのはごめんだ。まして、偽善的なクリスチャンの女の子など、お断り。彼はマゾヒストじゃない。

レックスは時間がなくなってきた。いくら頑張っても、いい人は現れない。それに、どこへ行ってもエイデンに遭遇する。あのリストはどんどん長くなっていくばかり ——

過去に掲載済みのストーリーのリンクはこちらです。

***




「コンドミニアム探しに行かなきゃ」レックスはチャンキーモンキー・アイスを一口食べ、傷ついたオーク製のコーヒーテーブルに足を伸ばした。

トリッシュは、チェリーガルシア・アイスの隅から見上げた。「え、どうして?」

「計画変更よ」居間に置かれた、光沢のないオレンジ色とにごった茶色のソファの上に落ちてしまった一滴のアイスクリームをこすった。

「キンムンがあなたの最初の作戦だったの? 大した作戦じゃないわね」

レックスは、しばらく怒りがおさまらないだろうと思っていた。本当に、そんなに早く失恋から立ち直れるものだろうか?「幻を見てたんだと思う。それか、理想を追いかけてただけ」

トリッシュはまたアイスクリームにかぶりついた。「どうしてコンドミニアムなのよ? お金を貯めてるのは知ってたけど、プレイオフの遠征のためにそのお金が必要になるんじゃない?」

「まだ足りない、チーム全体ではね。それに、誰かスポンサーになってくれる人がいる、って信じてる。電話を折り返してくれさえすれば」レックスは、音が鳴らない電話をにらみつけた。

「大金だもんね」トリッシュはさくらんぼを引っ張って出した。

「ボーイフレンド探しも続けなきゃ」

「ボーイフレンドは要らないって。誰でもいいから、マリコの結婚式に連れて来ればいいわ」

「おばあちゃんの期待は、一回限りのデート相手じゃなくて、ボーイフレンド。あの人は、恋人同士のようなそぶりをするかどうかを調べるの」レックスは、たるんだソファのスプリングの上でお尻をずらした。

「誰を連れてったって、おばあちゃんはその彼のことで何か文句を言うに決まってる。でしょ?」

「どういう意味? 私が恋愛してるってだけで興奮するわ。きっとその彼を好きになる」

「賭ける? マリコの時と同じよ。背が低い、背が高い、痩せ過ぎ、太り過ぎ、日本人じゃない、中国人じゃない、ってね。マリコはいつもやり込まれてた」

「まあ、マリコの場合は可哀想なぐらいどうしようもないデート相手だったもんね」

「おばあちゃんが一つも文句を言わなかったから、あの、なんとかって人と結婚するだけだと思うわ」

「私の彼氏のことをおばあちゃんがどう思うかなんて、大体どうして気にするの? おやすみのキスをするのは、おばあちゃんじゃないんだから」喉が詰まった。アイスクリームを飲み込むことができない。

トリッシュが、さっと用心深そうな目を向けた。「あなた、大丈夫なの——?」

「大丈夫」レックスは口についたアイスクリームを拭いた。

二人はしばらく黙って食べていたが、レックスは苛立って、コーヒーテーブルを蹴った。

「おばあちゃんが考えてることが、どうしてこんなに気になるのかな? 私たちってほんと、どうしようもないわ」

トリッシュはまだ食べている。「恐怖に洗脳されてるのよ」

「そうそう、自分が正しいって分かってるのに、反対できない。私たちって、どうしてこんなに臆病なのかな」レックスはもう一口、口に入れた。「あの人は四一キロしかないのよ。私たちだったらやっつけられるわ」

トリッシュはレックスの冗談を無視した。「四一キロより重いわよ」

「どういう意味? だってあの人は——」

「違う、本当に四一キロより重いの」

「ああ、そうか」レックスはアイスクリームを置き、鳴りそうで鳴らない電話を見つめた。「大丈夫、四ヶ月あるわ。いい人がきっと見つかるはず」

「結婚式の後でその彼を捨てたって、その頃までには新しいスポンサーが見つかるわよ、きっと」トリッシュはレックスの前でスプーンを揺らした。「どうしてそんなにイライラしてるの? バレーボールの知り合いか誰かにしとけばいいじゃない」

「分からない」レックスは腕を組み、ソファで丸くなった。「こういうことを強要されるのは大嫌いなの」

トリッシュは食べている途中で止まった。「まだ心の準備ができてないとか?」

「もちろん、できてるわ。カラスみたいに突っつかれるのが嫌なだけ。どうせだったら、自分のやり方でやるわ」

「どこが違うのよ。どっちにしろ、おばちゃんの要求通りになるのよ」

「私の人生をコントロールするのは私、おばあちゃんじゃない。マリコみたいに、トミオとかダイキとかハルオとか、日本人男性だったら誰でもいいからデートするなんてことはしない。デートをする心構えはできてるけど、私はバカじゃないの。私と出かける男性は、私の基準に合格しなきゃ」

「基準って、どうするつもり? 競走馬みたいに歯を見せてください、って頼むの? それか、財布の中身? ちょっとシャツを上げてくださいとか? 頭の後ろがハゲてませんかとか? それで、検査に合格しましたって?」

「バカ」レックスはトリッシュに枕を投げた。「違うわ。今ね、女性の聖書勉強会で、『エペソ人への手紙』を読んでるの。信仰のある男性の特徴がたくさんあって、私も自分のリストを作ってるのよ」

トリッシュは声を上げて笑った。「リスト? 『エペソ』のリスト? 千メートルぐらい長いリストなんでしょうね」

「違う、六つだけよ」

「六つだけ? 分かった。心拍数? 合格。字が読める? 合格。私が歩いている地面を拝む——」

「やめて、いいリストなのよ」指の上にチェックマークをつけた。「一つめ、バレーボールがとても、本当にとても上手じゃなきゃいけない」

「そんな人、たくさんいるじゃない。それが「『エペソ』に?」

「だって、私はその人に『服従』しなきゃいけないのよ——知ってる?『妻たちよ。主に従うように、自分の夫に従いなさい』って——バレーボールで私に勝てない人には服従しないわ。二つめ、身体的な魅力があること。完全な『一致』っていう問題よ。その人と実際に『一つ』になりたい、って思えなきゃいけないの」

トリッシュは思わず噴き出した。

「ちょっと、汚いじゃない! アイスクリームがいっぱい飛んでるわ」

「ごめん」トリッシュは口を覆った。

「三つめ、クリスチャンであること」

「それが三つめ? 優先度はあまり高くないのね、ふーん」トリッシュは、レックスのあばら骨のあたりをつついた。

「あの……別に優先度の順じゃないんだけどね。四つめ、安定した、いい仕事を持ってること」

「金持ちじゃなきゃダメだって、使徒のパウロさんはどこで言ってたっけ?」

「お金持ちってことじゃないの。だけど、「『エペソ人への手紙』では、男性は自分の体を大事にするのと同じぐらい妻を愛するべきだ、って書いてあるでしょ。ってことは、私のボーイフレンド——つまり将来の夫——は、私を養うのに十分なお金を持っているべきでしょ? 五つめ、誠実であること。浮気や不倫なんていうのは、絶対ダメ」

「それも「『エペソ』? 私ももっと聖書を読まなきゃ」

「六つめ、私に嘘をつかないこと。『あなた方は偽りを捨て、それぞれ隣人に対して真実を語りなさい』って書いてあるでしょ?」

「彼が嘘をついてるかどうか、どうすれば分かるの?」

「うーん」レックスは足をコーヒーテーブルから下ろした。

「そうだよね、嘘をつかないことを願うわ。どちらにしても、私を操ろうとしたり、騙そうとするのはダメ。それで、どう思う?」

トリッシュは肩をすくめた。「いいんじゃない、実行可能だと思うわよ」

「慎重になりたいだけなの、分かるでしょ?」

「もちろん、分かる」トリッシュは空になった容器を置いた。「じゃあ、コンドミニアム探しはどうなるの?」

「考えてみて。家っていうのは独立宣言みたいなものよ。だけど家族にとっては、公然とおばあちゃんに逆らうのは独立とは言えない。投資だと考えられるから、受け入れてもらえる独立なのよ」

「あーあ、なるほどね」

「宣言しなくちゃ。たとえボーイフレンドと一緒にマリコの結婚式に行ったとしても、完全に言いなりになってるわけじゃないことを、おばあちゃんに分からせないと」

「おばあちゃんはモンスターじゃないんだけどね」

「あなたはいいわよ。大事なことについて、おばあちゃんから脅されたことがないんだから」

「実際、この前の夜も親切だったしね」

「ええっ? 何のこと?」

「新しいボーイフレンドを紹介したのよ」

「で、今週の流行りは?」

「うるさい」トリッシュは舌をペロッと出して、新しい男の子のことを話すときによくするように、クスッと笑った。「先週ね、佐古寿司でランチをした時に会ったの。ウェイターなのよ。新しいお箸を持ってきてくれてさ」トリッシュは頬にえくぼを作った。「そんで、おばあちゃんには日本語で話すの」

「すごい!」トリッシュにハイタッチをした。「おばちゃんが気に入るはずね」

「言っとくけど、おばあちゃんには気に入られた方が便利よ。ボーイフレンドを見つけなさい」

「そうね、明日から会社で行動開始よ。同僚が、誰か知ってるかもしれないし」

***

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